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PROJECT NIGHTMERE?3?(ナイトメア計画)

《黒い超闘士》
とくん… とくん…と、心臓の鼓動と共に総ての意識と感覚がグルンガストと共鳴を起こす。
形のないものを掴む様な世界から一気に開け、思考を巡らし司令を下せば総てが思い通りに動いて行く。
大海原にぽつんと落ちた米粒を掴む様な始まりからは信じられないほどの世界が、今は総てのモノが自分の視野内で把握出来るかの様な感覚に囚われていた。


〔〔グルンガスト壱式改、出る〕〕

総てのものから遮断され隔絶されたコクーンの中で01は言葉すら発する事なく、意思を脳からの電気信号にのみ任せた。

「しかし…いきなりの実戦で大丈夫か?」
「まだ、微調整もまともに済んでいないのだぞ」
特殊脳医学研究所の閉鎖区域からの出撃をしたグルンガストを見送り、イングラムとコバヤシ博士は、口々に非難の視線と言葉を浴びせられていた。
コバヤシ博士も、その意見には甘んじなくてはならない状況ではあった。
まだ、自分の開発中のT-LINKすら娘であるアヤに強いつつもまともに動作させられていないのだ。

〔〔あんた達ねえ…人を非難する時間があったら、もっと他にする事があるんじゃないの? そんな事してる暇があったら、初めての実戦データなんだからちゃんと記録しろっての…ったく、俺が大丈夫だって言ってんだからいいだろうが…〕〕

イングラムとコバヤシ博士を非難している科学者達の言葉をコクーンから感じ取っていた01が、管制室のスピーカーから首に取り付けられた声帯マイクで愚痴を漏らす。
グルンガストの核としてコクーンに格納されている間は非常事態に備え、酸素マスクを付けられに口腔内にチューブが差し入れられている為に、言葉が話せないのでそう言った処置がされていた。

「無駄口は叩かんでいい。どうだ、いけそうか?」

そんな01の言葉にイングラムはにこりともせず、データ解析の為の端末を忙しく操作しながら問い掛ける。

〔〔ああ、大丈夫だ。充分行ける。今までのグルンガストが出せていたスピードの1.5倍のスピードで目標ポイントへ到着出来そうだぜ〕〕


機械的に処理をされている筈の声が、何処か弾んでいる様に聞こえたのは、そこにいた科学者達だけではないだろう。そう伝えた本人ですら、まるでリミッターが外れているかの様な高揚感が自分の中で湧き上がっているのを感じていたのだから。
しかしそれは、自動的にコクーンに搭載された機械から投薬し続けられている薬物のせいなのだと、01は今はまだ気付いて居なかった。

「よし、ではそのままSRXチームへ増援に行くがいい。そして敵機殲滅後、直ちに帰投する事」

〔〔了解。任せとけってーの〕〕

「…」

イングラムの命令に対し、まるでお遣いを頼まれた子供のような返事をする01のやり取りをコバヤシ博士は複雑な心境で見守っていた。
言葉ではそう返して来る01ではあったが、送られてくるデータ上からは断続的に『悲鳴』の様なパルスが確認出来たからだ。



〔〔敵機確認。これから攻撃行動に移行する。パターン照合後、調整薬の投入よろしくっ〕〕

01が敵機を視認したのだろう。
スピーカーから何処か嬉しそうに弾んだ声が響く。

「了解。パターン照合…終了。 指定薬の投薬開始します」

01の言葉に科学者達は、演習では投薬出来なかった薬物を投与する為に、コクーンへデータを送る。

〔〔……〕〕

コクーン内で01を拘束する機械達が一斉に動作を始め、同時に脊椎に繋がる電極とチューブから各信号と薬物が投与開始されると、一瞬、チリ…とノイズが侵入してくるような不快感に01の身体は拒絶反応に似たものを発し、再び『悲鳴』の様なパルスがデータとして管制室のモニターに映し出された。






「所属不明機出現っ 接近しています!」

R?3に搭乗しているアヤが、思念にザラつきを感じ、慌ててレーダーでその感覚の確認をした。

「だめだわ… 判らない。 敵機の増援かしら…」

アヤの呟きをレシーバで聞き取ったリュウセイが

「…なんだって! 敵機かっ!」

と、いち早く反応して問い掛けるが、アヤは胸が締め付けられる様な嫌な感覚に思わず片手を胸元に持って行き、ぎゅっと拳を握りしめた。

「…判らないの… 敵機でもないし… 味方でもない気が…」

ザラザラする感覚にアヤは眉根を寄せ唇を噛み締めたその時、ライからの通信が入る。

「目視にて確認っ! 黒い機影!?」

「至急コードの確認を…っ!」

そしてライからの通信に慌てて顔を上げたアヤとリュウセイ、そして視認したライの前に現れた機体に3人は驚愕の表情で同時に呟いた。



「??????っ! グルンガストですっ!!!!」

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PROJECT NIGHTMERE?2?(ナイトメア計画)

《記憶》
「イルムガルト中尉応答せよ。繰り返す、イルムガルト中尉応答せよ」
グルンガストの出撃に10分ほど遅れ出撃したイングラムの駆るR?GUNが、神島に向かう海上からグルンガストに向けて交信を何度も試みたが、酷いノイズしかスピーカーが聞こえて来ない。
基地からもグルンガストに向けてひっきりなしに呼びかけてはいたが、強力なジャミングに遭っていたのか、矢張り通信不能で返事がなかった。
『こちらR?GUN、イングラム機。神島沖ポイント707地点に到達した。これから神島に上… 』
コンソールレシーバーを使い基地司令部と交信している真っ最中に、イングラムは正面に見える神島から煙が立ち上るのを発見し、一瞬言葉が止まる。
『どうしました、イングラム少佐』
不審に思ったオペレーターが、問い掛けてくると、イングラムは正面を見据えたまま
『神島でグルンガストが敵機と交戦中の模様。直ちに向かう』
そう言うと一方的に交信を絶ち、バーニアを噴かした。
同時に基地司令部のオペレーター達は通信システムの一部を変更し、緊急回線でグルンガストに交信を再び開始したのだった。




「イルム… ルト中尉…っ  応答願…ますっ  応答を…っ! イルム中尉っ!」
コクピット内は、それ以上に小さな破裂音や、寸断された回路から飛び散る火花の音に蒸気が吹き出す音、砕けたモニターが落ちる音や、衝撃によってコンソールパネルに亀裂が入りそれが弾ける音などが酷く、緊急回線から響く酷い雑音混じりの割れた途切れ途切れの声は、それらの音や砕けたキャノピーから入る風の音に流されていた。

「……は…っ  はぁ…っ」

そんないつ機体が誘爆を起こしてもおかしくない状況の中、脱出装置が作動しないシートに座ったままの状態でイルムは呆然としていた。
いや、その表現方法は間違っていたのかも知れない。
あの閃光の中心にいたのだ、普通なら機体事爆発して姿形が無くなっていてもおかしくはない状態であったのに、グルンガストは原型をほぼ留めていたのだ。これでグルンガストがどれだけ頑強な機体であるかがよくわかった。
その状態の中にイルムがいるのだ。呆然としていたのではなく、半分は意識が朦朧として自分の置かれている状況がただ判断出来なかっただけなのかも知れない。
そんな中、ぼんやりとした状態のイルムは

「あ…れ…? 半分…見え…な……」

何処か気の抜けたそれでいて掠れた声で、ぽつりと言葉をひとつ漏らした。
鉛でも流し込まれたのではないかと思われるほど重く震える片腕を持ち上げ、のろのろと自らの視界の位置に持ってくる。
グローブは、傷だらけで中の手が見えるほど破れており、僅かに血が付いている。

「……」

現在イルムには、キャノピーとモニター越しから見えていた真っ青な蒼穹が歪に、半分だけくっきりと切り取られた形で見えており、更には赫に染まった謎のモノが視界に入っていたのだ。
そして、何故かまるで自分の身体ではないように思えてしまうほどに自分の身体が酷く重く、シートに縫い付けられ身動き一つできなくなってしまったかの様で、イルムは痺れた脳で必死に自分に何が起きたのか思い出そうとしていた。
しかし考えようとすればするほど、それはまるで空中で霧散してしまい掴むことが出来ずにいた。

「イル… 中尉… …ガ…ト中尉  返事を…ろ…」

ふ…と意識が薄れた時、小さな爆発音や火花の飛び散る音に紛れ、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
インカムから聞こえてくるのか、それともスピーカーからなのか今のイルムにはそれすらも判断が付かない状況で、その声の主が誰であるかだけははっきりと聞き取れた。

「イ…… グラ…ム…少…佐……です…か… な…んで… 少佐……が……」

自分を見下ろして来る相手がすぐ目の前にいると言うのにも関わらず、それすらも何処かフィルター越しの出来事の様な感覚で、イルムはその相手の名前を呟くと静かに意識が遠退いていった。

R?GUNに搭載されている特殊なコンピューターでジャミングキャンセラーのプログラムを立ち上げる為に神島から眼を離した一瞬の隙に、轟…っと言う衝撃波が神島方面から轟き、機体を揺さぶる。

「……っ!」

イングラムがその衝撃に顔を上げると神島は高熱源に包まれ、その閃光にモニターの彩度が僅かに落ちる。

「…まずい…な… あの様子では…」

ジャミングキャンセラーのプログラム起動を諦めバーニアを噴かそうとした時、R?GUNのターゲットセンサーが警告音を発し、イングラムはそのセンサーに反応した物体を速やかにモニターへ映し出す。
そして、モニターに映し出された敵機の形状の異様さと、ダメージを大きく受けているだろう状態にグルンガストがそこまでしたのだと察知した。しかし、グルンガスト1機でこの状態であるのだ。
R?GUN1機ではどうにもならないのは明白で、イングラムは緊急的に装備しておいたレーザーチャフを散布し、ペダルを踏んでバーニアを最大全速にし、神島へと急いだ。



建物は爆風でなぎ倒され破壊尽くされており、多分そこには町があったであろう場所の中央付近に、無惨な状態の巨体を横たわらせているグルンガストがあった。
無数の槍状のドリルがその巨体を貫き、頑強な筈の装甲が罅割れ、そこから巨体を維持する為のエネルギーを稼働させる為のプラズマリアクターからの廃熱処理を行う装置の破壊によって廃棄熱を処理仕切れなくなったせいで水蒸気が吹き出し、寸断された回路の至る所から火花が飛び散っていた。
イングラムは、らしくもなく小さく舌打ちをすると、R?GUNでグルンガストの傍まで近付き、コクピットのある頭部へと機体を寄せると手動で一部のモニターを移動させ、オートコントローラーでコンソールパネルを格納し、R?GUNのコクピットハッチを開いてシートベルトを外しハッチ脇にあるリフトグリップを使ってグルンガストの破壊されたコクピットへと降りる。

「イルムガルト中尉、返事をしろ。生きているなら…」

熱くなった装甲からの放熱は、パイロットスーツを着用していでも感じられるほどで、イングラムはスーツの内部温度調整をしつつ、割れてコクピット内が剥き出しになったキャノピーの一部を手で外しながらグルンガストのコクピットを覗き込んだ。

「…っ」

イルムの名前を呼び覗き込んだそこは、イングラムが想像していた以上の状況だった。
本来なら臭ってくる筈もないのにヘルメット越しからも、血臭が鼻腔を擽り胃液が迫り上がる様な感覚が、イングラムですらほんの一瞬だけ感じられる程の状態が、そこには繰り広げられていた。
筆舌し難いと言う言葉は、こういう時に使われるのだろう。
生命維持の危険を知らせるアラームがけたたましく鳴り響き、割れたキャノピーの一部が散乱し、更には敵機の発射しただろう槍状のドリルの破片の一部がコクピット内に突き刺さっていた。
そして破壊され既に機能を果たさなくなっているコンソールパネルの上に、グルンガストのパイロットである血塗れのイルムの片腕が、辺りをも血で染め歪な形に折れ曲がり千切れた状態で引っかかっていた。
パイロットスーツを着用した状態で怪我をし、ヘルメットが自らの手で外せない場合、パイロットスーツ内に溜まった自らの血で溺死する事もあるのだ。
だがイルムは運が良くヘルメットが外れた為に、それだけは免れていた。
が、それだけだった。

「…衝撃で…ヘルメットが外れ…窒息死は免れたが…このままでは失血死も間近だな…」

そう呟きつつ、ふ…とイルムの上半身の状態を確認した後、破壊されて半分に折れ落ちた上部モニターと、爆風で煽られコクピットに飛び込んでそのまま内部を抉る様に突き刺さった装甲の一部へと視線を移した。
コクピットの後部壁面に装甲の一部と共に縫い付けられているそれを凝視し、イルムの姿を再び見詰める。

「…ああ」

イングラムは、再び小さく喘ぐ様に声を漏らすと、コクピット内が飛び散った血で染まっている理由のもうひとつが理由がそこで判明した。



「イ…… グラ…ム…少…佐……です…か… な…んで… 少佐……が……」

ふと、衝撃と失血で意識が朦朧としているイルムがイングラムの存在に気付き、生気のない視線で自分を見詰めて来た事に気付く。
鮮やかな海の色に染め上げられた長い髪が、血でべっとりと赫く染まり重たそうに流れ落ち、その赫が雫となってシートとパイロットスーツだけでなく床をを汚しており、その反比例する色彩が、じわじわとイルムの生命の灯火を奪っていっているのだ。

「黙っていろ。直…医療班が到着する…」

イングラムは、自分を見詰めたまま意識を手放すイルムに、ただそれだけ言うと粉々になったキャノピー越しから天空を仰いだ。




呼吸を補助する装置のポンプの音と心拍数と脈拍を監視する装置の微かな電子音が、静かな病室に響く。真白なリネンと薄水色の患者用の白衣、そして全身を覆い尽くす包帯がイルムの身体を覆い尽くしていた。

「時間を掛ければ損傷した肉体の再生も…可能ではある」

ICUにある滅菌室で眠るイルムをガラス越しに眺め、イングラムは手渡されたカルテと、その他のデータが記されたレポートを眺めながらポツリとそう言葉を紡いだ。

「しかし…」

そして一呼吸したあと、そのレポートの内容を読み上げていた相手に向けて

「今戦における戦線復帰は絶望的だな…」

と、感情のない口調で言い放つ。
「特機のパイロットの戦線離脱か…」
イルムの眠る滅菌室を監視するモニターを眺めつつ、医師と科学者、研究員と一部の軍上層部のメンバーが渋い顔をしてみなが一様に小さく呻く。
「現戦況を考えると、我々にとっても手痛い損失だ…」
事実、グルンガスト級の特機のパイロットの養成には、多大な時間が必要だった。
更に云えば、イルムは中尉と言う階級ではあるが、特機パイロット養成には欠かせない教官としての知識と能力も高く、今後、特機のパイロットになるだろう若者達のよき先駆者として働いて貰う予定でもあったのだ。
「だが、こうなってしまっては…傷痍兵として…後方に下がって貰うしか…」
「では今後グルンガストのパイロットは誰がするのだっ」
「新兵に能力者はいないのか」
科学者も軍上層部の、イルムの容態を案じるだとか労うなどと言う意思はまるでなく、手駒が減った事にのみ議論を投じており、そこにイルムの親族がいると言う事なとすっかり忘れているかの様で、カザハラ博士は青冷め強張った表情のままモニター越しの自分の息子を見詰めていた。
そんな中イングラムはその様子に薄っすらと彼等を見下した様な笑みを浮かべつつ、

「ひとつ…手段を問わないのであれば…」

『消去済み』と書かれたディスクを一枚、過去の資料の中から取り出す。
「……っ!」
そのディスクに見覚えのあったカザハラ博士とハミル博士、そして軍上層部のメンバーでも更に発言力のある人物の1人が息を呑み、イングラムの持つそのディスクを凝視した。
「駄目だ…っ それは凍結したプロジェクトのはず…っ」
ハミル博士がカザハラ博士の顔色を窺いつつ、そう叫ぶ様にして、イングラムの行動を諫める。
しかしそんなハミル博士の言葉を遮る様にしてイングラムは、何事もなかったかの様に淡々と語り続け、

「????それには、凍結されている“例の計画”の凍結解除と再編…」

そこまで言うと、今度はカザハラ博士が取り乱したように椅子から立ち上がり、イングラムへと詰め寄ってその襟刳を掴み言葉もなく拳を怒りに振るわせたが、反対にイングラムはそんなカザハラ博士を軽く一瞥し、

「イルムガルト中尉本人の意思と了承が必要になる」

そう言い放つと襟刳を掴んでいたカザハラ博士の手を払い除け、小さく溜息を吐いて襟を正した。
そして、

「…カザハラ博士ほどの方が私情に流されて、現存する数少ない手段のひとつの妨げをするような愚かしい行為を…するはずなどありませんね」

そう言ってイングラムは口元を弓形に口角を吊り上げた。



特殊脳医学研究所の地下施設内にある、一般研究員が立ち入ることの出来ない第一級サイコハザード区域の最奥部に作られた更に特殊IDを持っている人間しか侵入を許されない区域に、イングラム少佐、そしてイルムがいた。

「意識が覚醒している間に、出来るだけの事をしておいてもらわないとな…」

生命維持装置や、ありとあらゆる特殊な機械がイルムの寝ているユニットの周囲には設置されており、それら総てがイルムの身体の何処へと繋がれている。
そして、そんな状態でありながらもイルムは手渡された資料が映し出されるモニター付端末を器用に片手で操作しながら、必要項目にチェックを入れ書類とデータを照らし合わせ、身体状況をチェックしているイングラムに向けてそう呟いた。
神島での事件からまだ2週間だと言うのに、既にイルムはそこまで会話が出来るようになっていた…と言うよりも、強引にそれらの事が出来るような身体に調整されたと言っても良かった。
その影響でか、1日のうち半分は意識を失う様に眠っているか、半覚醒状態でデータを抽出する作業と、投薬によっての肉体の補強調整に費やされていた。

「ああ。まだ本格的な調整前だからな、ここで潰してしまったとしたら、貴様に掛けられた莫大な予算が水泡と帰す」

イングラムの無情とも思える言葉に、イルムは掠れた何処か冷めた笑い声を漏らす。
既に、この計画に首を縦に振った時点で、イルムは“人として生きる権利”を捨てたのだ。
既に軍籍も抹消され、何処の軍施設内にも存在しない事になっていた。
いやそれ処か、もしかしたら戸籍すら廃棄され『死亡者』扱いされているのではないかと、イルムは考えていた。それほど、今現在イルムが置かれている状況は過酷なものだったのだ。

「予算分は働かないと…な… あんたも減給されたくはないだろ…」

半分虚ろな視線で、そう言うとイルムは口元だけで笑みを作る。
以前のような明るく、太陽の陽射しのように明るく全開で笑っていた時とは正反対の仄昏い陰を落とした笑顔は、白く乾きひび割れた口唇に青冷めてくすんで肌の色を更に暗いへと見せる。

「俺の事はどうでもいい。総ては貴様中心なのだからな… さて。それでは先ほどの説明の続きだが」

だが、イングラムの方はそんなイルムの軽口を聞いているのかいないのか、イルムの言葉を遮り、

「…当時、ドナ・ギャラガーという女性研究員が“個人”で開発していたシステムの応用だ。 まあ言ってしまえばTLSの前身に近いものだな。」

そう言葉を続け、イルムの持つ端末にデータを送る。
その内容は普通の精神を持つ人間ならば吐き気を催す様な大量の実験データと、そのサンプルの写真、そしてその実験家結果とサンプルの末路が克明に記されていたのだ。
しかし、イルムはそれらを顔色ひとつ変えず無言のまま閲覧し続けている。

「…違いがあるとすれば、インターフェースを脳の指令部に直結させると言うことだな…」

イングラムはそこまで言うとイルムの方をチラリと見遣り、そして一呼吸置く。
それは、イルムに対してまるで憐憫の情を思わせる様な視線ではあったが、本人はそんな気は一切無く、イルムにしてもそれをイングラムが本心からしているとは思ってもおらず、その視線を受け取る事はない。

「しかし…皮肉なものだな。…カザハラ博士達が開発計画の進退を賭けてまで封印した…その悪魔が…最初から貴様を選んでいたとはな…」

と、最後のデータをイルムの端末に送信し終え、イングラムはポツリと呟く。

「月基地の…」

そこへ小さな電子音が鳴り、そのデータを受け取って丁寧にそれらを脳内へと叩き込みながら、反対にイルムはイングラムの言葉を遮るかの様に言葉を続けた。

「…いや、もっとずっと前から…“こいつ”は俺の傍に居たんだな…」

抹消された筈のデータの一部のコードナンバーのシステムの一部が、何も知らないままずっと自分が駆っていたグルンガスト壱式に搭載されていた事と、そしてそのコードナンバーが実は自分に科せられていたものだと知り、イルムは先ほどとは異なる笑みを漏らした。

「イングラム……この身体、あんたにくれてやるよ」

資料を読んで総ての事柄が自分の胸の中で繋がり、ストンと腹の中に収まった感覚を受けたイルムは、最初から、そのつもりだったんだろう…と、言う様にイングラムへと微笑む。

「覚悟はある…と言うことか いいだろう」

イルムの表情を見詰め、イングラムも薄く微笑む。
共犯者は、出来るだけ多い方がいい。
しかし、この計画に限ってはふたりだけで充分なのだ。


そして……。




PROJECT NIGHTMERE?1?(ナイトメア計画)

《序章》
「神島沖ポイント707地点に、アンノウン出現っ! 識別信号レッドっ!」
オペレーターの声が司令部に響き渡り、伊豆基地が俄に慌ただしくなる。
ブリーフィングルームで待機していたイルムは、突然鳴り響くアラートの音に慣れた様子でリーディングエリアへと駈け出して行く。
「ウイングガスト、ハンガーエリアにて、出撃可能ですっ!」
ハンガーデッキを駆け抜けると、オペレーターの声がハンガーに響き渡り、その声に促されるようにイルムは既にグルンガストからウイングガストに変形している機体に接岸してあるタラップへと駆け上り、コクピットへと飛び込んだ。
「よし 出撃させろっ!」
司令室からの命令に、イルムはコンソールパネルへオートから音声入力モードへと変更を打ち込んで行く。
「了解しましたっ! イルムガルト中尉、出撃して下さいっ!」
司令室でのやり取りをヘッドレシーバーから聞こえてくる。
総て入力し終え、コントロールの管理がトラフィッカーの手から自分へ移るのを確認し、
「アイハブ!」
と声を上げる。
反対にレシーバーから“ユーハブ”とトラフィッカーから返事が戻り、完全にウイングガストの操縦権が自分へ移った事が判り、同時に
「了解。システム・オールグリーン 射出ビーコン確認 ウイングガスト 出るっ!」
カタパルトデッキに移動したウイングガストは、ライトグリーンに輝くビーコンの誘導によって轟音と共に飛び立って行った。



「ウイングガスト 神島沖ポイント707到達しました」
敵機を視認出来ない為、ジャイロスコープと示し併せつつレーダーサーチングするイルムは、コンソールパネルの上を忙しなく指を踊らせていた。
「よし…っ いたっ!」
敵機は光学迷彩仕様なのか視認出来ないが、レーダーには映り込む為、それを頼りに探査を行わなければならないのが面倒ではあったが、それでもこの方法が現段階では一番確実であるため、グルンガストの装備からすると不便きわまりなかったが妥協するしかない。
「…っ」
レーダーで存在位置を確認し、モニターから映し出される敵機の姿を発見すると、イルムはコントローラーを握りしめ、その敵機が上陸している島へと降下していった。



《始まり》
そこは、地獄だった。
いや、地獄と表現出来るほど、生易しい状態ではなかった。
「…酷…い… なんだって…こん…な…」
グルンガストのコクピットから、上陸した島の町の全景を呆然と眺め、イルムは絶句する。
今まで、各地の戦場を点々と渡り歩いてきてはいたが、ここまで酷いものは初めてだった。
宙空に浮かぶ、アンノウン…敵機から伸びた先端がドリルのように鋭く尖った無数の触手が、町中にある総てのものを貫いていたのだ。
そしてそれは当然ながら、ものだけでなく人も含まれており…。

「……っ!」

伸びた触手の1本が本体に引き寄せられると、そこには逃れる事が出来ないまま身体を貫かれ絶命し無惨な姿の血塗れの少女の遺体が引っかかったままの状態で、コクピットのモニター画像をアップにしていたイルムの視界に入った。
一瞬、その少女の長く赤い髪が、恋人とダブり、思わず首を振る。
そして眼前の敵が今まで地上に降下してきた敵とは確実に違う相手なのだと、瞬間イルムは判断した。

「…間に合わなくて…済まなかった…」

心の中でイルムはモニターに映る少女の遺体に向かってそう言うと、コンソールパネルの上を指が素早く手動いて行き、システムをオートからマニュアルに切り替える。
そして同時に頭上のパネルからマニピュレーターが伸びてくると、それを掴んで引き下ろし、システム変更をするとそのマニピュレーターがトリガーへと変化した。


「ブースト・ナックルっっ!!!!!!」

そして、そのトリガーを握り締めるとそのまま勢いをつけて引き寄せ叫んだ。





闘いが、始まった…。



《予兆》
モニター越しに見える敵はクリスタルの様な輝きを放ち、先端がドリルのように鋭角で幾つもの突起を触手のように伸ばし、のたうち暴れさせ地上の町を一つ地獄絵図にしてしまった、アンノウン。
咄嗟にブーストナックルを放ったが、その敵はそれをまるで予測していたかの如く、その触手のような突起が前方へと集束し、放ったブーストナックルを絡めて受け止めるとそのまま地面へと叩きつける。
「こっちの行動が…読めるって…事か…」
そう眼前の敵を睨み据え、イルムはそう吐き捨てると乾いた唇を舌で何度も濡らす。
全身に走る緊張を、その行動で押さえつけている様だった。
「さぁーて…」
握りしめたグローブの中の手に、じっとりと汗が滲む。
「もたもたしてたら… こっちがやられちまうから…なっ!」
コンソールパネル上に表示される赤い文字を視界の隅に、ペダルを踏み込みトリガーを引いた。
「行けぇぇーーーーーーっ!」
踏み込むペダルに併せ、グルンガストが爆音をあげて突進して行く。
残念ながら、この機体は他のパーソナルトルーパーと違い接近戦用に造られており、射程距離が短く遠距離攻撃に向いてはいない為に、ある程度の所まで敵の懐へと入らなければならなかった。
だが、その代わりに巨大で装甲も特殊VG合金で覆われており、多少の爆撃を受けてもびくともしない様になっていた。
地面に叩きつけられたブーストナックルを回収するためのプログラムを素早く打ち込み、触手の絡んだ腕がブースターの逆噴射によって引き千切って行き、グルンガストの元へと戻る。
僅かな振動音と共にグルンガストの腕の肘の関節部へ放たれていた部分が結合すると直ぐにイルムは、マニピュレーターが正常に稼働するかの確認をする為に指を折り込む。
「…」
そして突進をかけた敵に向け両腕をあげ、自分に向かってくる錐状に集束された触手に向かって掴みかかると、捻じりあげ引き寄せそれをブチブチと力任せに引き千切った。

『ォォオォォォォォォォオォオーーーーーーーーーン…』

幾つもの触手状のドリルがひとつに集束し、錐となってグルンガストを貫こうとしていた敵は、そのグルンガストの行動に対応出来ず、その部分を引き千切られるとその巨大な身体を震わせ、全身を振動させて低い唸り声の様な音を発したのだ。
「…な…にっ」
その音は、どちらかと言うと音と言うよりも人の呻き声にも似ており、イルムは瞬間的に周波数を捉える為、コンソール上で解析を始めつつ、同時に次の攻撃パターンを瞬時に考え、触手と触手の狭間の僅かな隙間に手を捻じ込め、
「オメガ・レーザーーーっ!」
と叫び、音声入力でその僅かな隙間へレーザーを浴びせる。
鋭い光が奔流となり迸ると、敵は再び低い唸りをあげる様にその巨体を震わせた。

と、その時だった。

突然激しくアラームが鳴り響き、コンソールパネルの一部がレッドシグナルを明滅始め、
“装甲被弾脚部駆動部30% コンデンショングリーン 胸部45% シグナルイエロー ファイナルビーム発射不可能”
コンピューターからの音声アテンションがコクピット内に鳴り響かせたのだった。



引千切った触手をそのまま投げ捨てると、地響きを立てて地面に落ちる。
普段なら町中での戦闘を極力控えるイルムだったが、足元の町は既に生命反応ゼロだ。
同時に、コンピューターの解析が確かなら、自分が考えている事が正しく、まずはそれを行う方が先だと考え、イルムは敵機の触手を払い、如何にして起動不能にするかを考えていた。
“警告、警告。前方、収束するエネルギー反応あり”
コンピューターがけたたましい警告音と共に、モニターに映る敵が掲げてくるメーザー砲らしきものの砲身がグルンガストに向けられている事を告げて来る。
「チッ… やっぱそれもありってか…っ!」
四方に展開されている触手とは異なる形状のものが大きく拡がりグルンガストに向けられ、その先端からの高熱元反応で真っ赤に染まり点滅するモニターに映し出された。
「やられるかってーの…っ」
引き千切った触手を投げ捨てたグルンガストの手にはいつの間にか召喚された計都羅ごう剣が掲げ上げられ、まだ絡まってくる触手を薙ぎ払いその返し手で、グルンガストに照準を合わせてくる4門のメーザー砲の一番正面に任る1門を一閃する。
『ォオォオォオォーーーーーオォオォオーーーーンンンン…ッ』
すると、再び巨体を震わせ低くそして大きな唸り声の様な音が鳴り響き、イルムは眉を顰める。
先ほどとは事なり、その音は超震動波をも発生しているらしく、同時にグルンガストの機体が軋む程に震え、そしてコクピットの中のイルムの脳にダイレクトにその震動も伝わり、まるで脳を掻き回され様な感覚に陥り、一瞬眩暈を起こしたのだ。

「く…そ…っ」

クラクラする頭を軽く左右に振ると他のメーザー砲の照準から回避する為に、無意識のうちに指はその状態でもコンソールの上を滑って行く。
超震動発生浴びたグルンガストのコンピューターの一部はシステムダウンし、マニュアル操作に変更しなくてはならなくなったが、もともとマニュアル操作に慣れていたせいか、直ぐにシステム変更をする事が出来、更にはそれに対応した操作は容易かった。
しかし、モニターもコンソールもシステムダウンした部分を表示したままであったし、警告音は鳴りっぱなしの状態で総ての操作を行わなくてはならない。

「今の攻撃でシステムダウンしたとこって、コクピット内の環境制御してるとこばっかじゃねえか…っ」

モニターの片隅で点滅しているレッドシグナルは、エアシステム、生命維持装置、脱出装置、照準レティクルシステム等で、殆どがコクピット内の環境と戦闘に必要なシステムだった。
エアシステムがダウンしたと言うことは、このまま長時間の戦闘に及べば、機体の廃棄熱がコクピットを熱し続け、グルンガストを起動させているコンピューター総てがダウンするだけでなく、パイロットである自分の生命をも危ぶまれる状態になってしまう。

「こんなところで… 死ねるか…よ…っ!」

イルムは口の中で呟くように叫び、召喚した計都羅ごう剣を掴んでいない方の腕を掲げ上げ、再び今度は至近距離からのブーストナックルを、幾つもの触手が出ている上部円環へ向けて放った。

グルンガストの機体が、ブーストナックルを発射する反動で一瞬揺れる。
コクピットの中でその振動を受けながらイルムは次の手を考えつつ、コンソールパネルに伸ばした手を忙しなく動かし続けていた。
マニュアル操作ともなると普段の倍以上の手間が掛かるため、僅かだが余裕が無くなってしまうのだ。

「よっしゃぁっ!」

マニュアル操作したブーストナックルが、上手く敵機の上部円環部を貫き、何本かの触手を薙ぎ払う事に成功した為、思わずトリガーを握っていた手に力が入った。
コクピット内の気温が上昇し始めているのか、長い髪が汗で首筋にまとわりつき、額には僅かに汗が滲んでいる。それでも敵機からの攻撃のパターンをはじき出すモニターの解析画面と睨めっこをしている為に、その汗を拭っている暇はない。
パタパタと汗の滴がコンソールやシートに落ちる。

「…!」

先ほどの敵機から響いた超振動波を発生させた轟音というか、唸り声の解析が出来たことを示すデータが解析モニターに映し出される信号音に目配せ、その結果にイルムはギリッと歯噛みする。

「やっぱり…俺の感は間違っちゃ…いなかった…っ」

しかし、その結果に対応出来る手札がこちらにある訳もなく解析データを横目で睨み、イルムはただ歯噛みするしかなかったのだ。
と、その時だった。イルムはモニター越しの敵機を凝視し、信じられない光景を目の当たりに絶句する。

「おいおい… そりゃあ…反則だろ…」

レットシグナルに彩られたモニターに映し出されたのは、自己修復を行いグルンガストが今まで攻撃してきた部分が元の形に再生されて行く敵機の姿だった。
スローモーションで逆回転再生されていくように、触手は総て元通りになって行き、薙ぎ払ったメーザー砲ですら元通りの姿に戻って行く姿に、流石のイルムも焦りを覚え出す。
しかし、ここで眼前のこの敵機をグルンガスト一機で倒さない事には始まらないのだ。
そう。現在、他のパーソナルトルーパーは基地周辺に出現した、また別の敵機と交戦中な為に応援要請は望めないのだ。
コクピット内の温度がじわじわと上がり、モニターやコンソールが悲鳴を上げているかの様に真っ赤に点滅している。

「くそ…っ 諦める…か…っ」

イルムはモニター越しの敵機を睨み、悪態を吐きつつコンソールに映し出された機体のエネルギー残量の確認をすると、握り締めていたトリガーの赤いボタンの安全装置を外し、そのまま押し続けたままの状態で、

「計都羅ごう剣っ! 暗剣殺っっ!!!」

そう叫ぶと、召喚してあった計都羅ごう剣を掲げ上げ、正面の敵機へその刃を向ける。
そして、轟…っと言う爆音が響くと、グルンガストと敵機を轟音と目映い光が飲み込んで行った。





しゅうしゅうと水蒸気や黒煙を上げ、グルンガストが大地に横たわっていた。
機体の至る所から火花が飛び散り、無数の亀裂が入った巨体には数え切れないほどのドリルが刺さっていた。
グルンガストの攻撃を敵機も当然ながら読んでいたのだろう。
その攻撃と同時に、敵機は全触手をグルンガストへと向け、その先端のドリル部分のみを一気に射出したのだった。
一方、敵機もグルンガストの攻撃で多大なダメージを受けたのか、宙空に浮遊するのが精一杯といった状態で、触手をゆらゆらと揺らしつつゆっくりと上空へと上昇していった。




Intermission : ATX-01(ナイトメア計画)

「…イルムガルト中尉」

本来、戦闘から戻ってきたグルンガストが格納され、整備点検されている筈のそこに、グルンガストの姿はなく、そして軽口を叩きながらタラップから下りて来る早々シャワールームへと駆け込むイルムの姿もない。ただあるのは、静まりかえった緊張感と、グルンガストの帰投を待ち続けている整備兵の重苦しい沈黙だけだった。
偶然にも極東基地へ立ち寄っていたゼンガーは、複雑な面持ちで空っぽな格納庫で独り佇んでいた。
この事実を知ったら、キョウスケとエクセレンはどう思うだろう…ゼンガーは唇を引き締め、グルンガストを待ち続けているプラットホームを睨み付けた。

軽薄に風体や言動にはあわない、実は真面目で堅実な戦歴の持ち主のイルムを、決してゼンガーは嫌いではなかった。出撃すれば、必ず戦績を上げてくる。
だが、そんな突出した能力が、彼の教員指導監であった上官に疎ましがられたのだろう。
キョウスケもそうだったが、華々しい戦歴のわりに階級は高いものではなく、一部の者達からは陰謀説まで上がっていたほどだったが、当の本人達は至って気にしているようではなかった。

「…何故、戻って来ないのだ」

当然ながら、パイロットは戦士だ。
戦場に赴くと言う事は、死地に向かうと言う事なのだと十二分にゼンガーも判ってはいたが、特機を駆るイルムガルトが戻ってこないと言う知らせを聞かされた時に受けた僅かな眩暈にも似たショックは、自分でも衝撃だった。
自らの目で確かめた訳ではない。
戦闘で消息を絶ち、そのままM.I.A(戦闘中行方不明者)となるパイロットは幾らでもいる。
当然ながらそのままK.I.A(作戦中戦死者)に移行する者も多い。
新兵も、ベテランもしかり。
だが何処かいつの間にか、特機乗り同士の間では帰投して当然と言うあり得ない意識が働いていたのかもしれなかったのだ。

幾ら、パイロットは戦死した場合に対して遺言として遺書を書かされているとはいえ。



「…」


ゼンガーは早く戻って来いと言葉には出せず、拳をぎゅっと握りしめるとくるりと踵を返し無言のままそこから立ち去った。

START OF DANCE MACABRE(ナイトメア計画)

《1》
士官学校を卒業し軍へ入隊したその年の誕生日にイルムは父親に呼ばれ、テスラ・ライヒ研究所へと赴いた。
そして、幼なじみのロバートに連れられて一般人の入れない特別区域の格納庫へと行くと、父親が自慢げに巨大スーパーロボットのグルンガスト壱式を大きなブルーのリボンで飾り、

「息子よー♪ 今日は軍人になって初の誕生日だぞー。私からの誕生日プレゼントだっ!」

と、自慢げにわざわざポーズをとってイルムへと見せつけたのだ。

「…お… おやじ…」

そんな父親に、思わずイルムは頭を抱える。昔からそうだった。
誕生日の度にブースターつきの三輪車や変形機構つき自転車などを開発してはプレゼントしてくれるのは、イルムとしてはとても嬉しかったのだが、その度に大怪我をしては入退院を繰り返し、気が付けば病院とはまるで友達の家へ行くような感覚で通うようになっていたのだ。
そのお陰か、子供の頃から父親譲りの話術を巧みに使い、病院の美人看護士や医師と仲良くなれてはいたのだが。
そしてとうとう、研究所の所費を使ってこんな巨大ロボットを誕生日プレゼントと言い出す始末だ。

「何をがっくりしているんだ。入隊式の時にはプレゼントをあげられなかったからな。愛する息子へお祝いのプレゼントをあげられなかった時の私の哀しみは計り知れなかったぞ。だーかーらー、その時のお祝いのプレゼントと誕生日プレゼントを一緒にした訳だ。うれしいだろう?」

毎度のマイペースぶりに頭を抱えてはいたが、

「…出所不明金とかで作った訳じゃねえよな」

イルムは思わず目の前のグルンガスト壱式と言われる巨大スーパーロボットを眺めつつぽつりと呟く。

「そこの所は任せなさい。パトロンの某コングロマジットの社長に“息子の誕生日にスーパーロボットをプレゼントしたい”と言ったら、ポーンとお金をくれたよ♪」

「……こ…この…」

そんなイルムの呟きに父親はしれっとした態度でそう応えてきた為、イルムは思わず拳を握りしめ言葉を失った。そんな事を言って億単位の大金をパトロンから搾り取る目の前のバカ親もバカ親だが、それにポンと金を渡すパトロンもパトロンだと。

「さて、イルムガルト。早く乗ってくれ。パパは、早くイルムガルトがこのグルンガストに乗って活躍する姿をみたいぞ」

研究者馬鹿と言うか、科学者馬鹿と言うか親馬鹿丸出しの自分の父親に、流石に頭がクラリとしたイルムは、

「あのなー… 幾ら士官学校次席で卒業したからってさ、直ぐに実戦配置される訳じゃないし、こんな特機に乗れる訳ないじゃねーかよー。ちったあ考えてみろってーの」

目をきらきらさせて自分を見てくる自分の父親に呆れて仕舞う。
卒業して直ぐに少尉待遇とは言え、所詮ペーペーなのだ。幾ら頑張っても次期戦闘機のパイロットになれれば御の字だというのに…と肩を落とす。主席で卒業したリンなら、もしかしたら判らないけれど。
イルムはそう思いつつ、脳裏に過ぎる思いを振り払う。

「大丈夫だ、息子よ。次に連邦軍に配備されるPTのパイロット選出会議にパパも招聘されているからね、イルムガルトの事を推しておくよ」

「…て、なんじゃそりゃーっ!」

これでは軍の腐敗に梃子入れしているのと同じではないじゃないかと、流石に暢気を決め込もうとしていたイルムであったが思わず叫んでしまい、

「た…頼むから…それだけは止めてくれ…。俺は実力でPT乗りになりたいから…」

と、泣きついてしまった。
しかし、そんなイルムの心の内を知って知らずか、

「流石、我が息子。いつも研究で私がおらず、ナニーに任せっきりだったけれど、こんなに立派に育って…パパは本当に嬉しいぞっ!」

イルムの言葉に感動してか、そう大袈裟に言うと泣きついてきたイルムをぎゅうーっと抱き締めたのだった。

《2》
リフトに乗り、タッチパネルに認証番号を打ち込むとリフトアームが作動し、グルンガストの傍に接岸されてイルムはそこから搭乗する。
巨大なスーパーロボットだけあって、その内部は複雑な機構となっており幾つものある隔壁を越えて、漸く最上部にあるコクピットへと乗り込めた。

「すっげえ…」

コクピットに辿り着くなり、イルムが発した第一声は驚嘆の一言だった。
それもその筈。
当然ながらまだイルムは実戦経験など無く、次期戦闘機のシミュレーターでしかコクピットらしいコクピットを拝んだ事がなかったからだった。

「親父ーーっ! なんか見たことねえパネルやらレバーやら、めちゃくちゃたくさんあるんだけど、これ全部使うのかよーっ」

搭乗する際に渡されたマニュアルをペラペラの眺めつつ、シートに腰を下ろし、ひとつずつ確かめるようにしてスイッチを入れて行く。

『ああ、だが大丈夫だ。そのグルンガストは音声認識装置が内蔵されているのでな、基本的動作は当然ながらマニュアル操作になるが、武器に関する操作は総て言葉で入力出来るぞー。だから、戦闘機やPTなんかよりもずっと扱いは楽だと思う』

と、モニター越しから指示をするジョナサンの表情が少しだけ曇るが、それにイルムが気付く事無くコクピット内の総てのコンソールパネルとモニター、アームにトリガー、スティックを総て念入りにチェックし始めていた。

「ふーん、すっげえなあ… ガキの頃から親父がいろんなモン作ってたけど、それら総てを踏襲したもんがこのグルンガストって訳かー。写真でみたPTのコクピットより断然広いし…これ全部を覚えるのは手間だけど…覚えちまえば、あとは何とかなりそうだな」

マニュアル通り総てスイッチを入れ終えると、グルンガストの巨体が静かに唸りを上げ出す。
コクピットではグルンガストが放つ轟音を聞くことはないが、それでもその振動と独特のくぐもった音の響きにイルムは思わず鳥肌が立つ様な感覚に囚われ、背筋がぞわりとする。
どうやってもシミュレーターからは感じ取る事が出来ない生の音。
振動。
そしてピリピリと痺れる感覚。
それらは、こうしたロボットだけに限ったものではなく、戦闘機でもそうだった。

「お、火が入ったみたいだな」

イルムは、エネルギーゲインをチラリと見て呟く。

「…あれ? なんだ…これ… マニュアルに載ってない…」

エネルギーゲインに刻まれた、謎の数字の羅列と不思議な暗号めいた文字を見つけ、一瞬だけイルムはそれに魅入ってしまったが、マニュアルに何も書かれていないと言うことは、パイロットにとっては必要のないものだと判断し、

「さて…と。じゃあ親父。いっちょ起動させてみますか」

上部から下がるコンソールアームを移動させ、小型マニピュレーターを使って次々と半全天モニターをクリアにしていった。

『よし。では、プラットホームを移動させるから、そっちからカタパルトへ移動しなさい』

マイクを使ってプラットホームのコンソールからグルンガストに搭乗しているイルムへ向けて話す口調は、先ほどとは打って変わり、父親ではなく一科学者のものになっていたし、イルムも“親父”とは返しているが、その口調は甘えから来ているものからではない。

「了解。じゃ、カタパルトの方に移動する」

シート横にあるレバーをぐいと握りしめ、そのまま引き寄せ、両脚は固定された幾つかあるペダルのうちのメインであるものをぐぐ…っと踏みしめるようにして押しつけたのだった。

《3》
プラットホームでジョナサンがグルンガストの発射シークエンスを行っていた頃、研究室にある大型コンピュータのブラックボックスが起動し始め、同時にそのコンピュータに連動しているグルンガストのコクピット内にある特殊な装置も起動を開始した。
静かにそこにいる研究者誰1人として、そのコンピュータの存在する本当の意味を知ることのない、沈黙のコンピューターは意味を知るもの以外にとってはただのブラックボックスでしかない。




「よし…と。グルンガスト…出るぞ」

イルムの言葉に反応して、グルンガストの背後にあるブラストリフレクターが立ち上がると同時にジェネレーターがフル稼働始め、ブースターが点火される。
同時にリニアレールが作動開始し、グルンガストの機体がフワリと浮き上がった瞬間、カタパルトのリニアレールの反発力と点火されたブースターの力によってグルンガストは格納庫から一気に飛び立って行った。

『グルンガスト形態のままだと、スピードに威力がないのでな、そのまま空を飛んでいるつもりならウイングガストへ変型するといい』

モニターでグルンガストの起動状態をトレースしつつ、ジョナサンはグルンガストに搭乗しているイルムへ向けてマイクでそう伝える。

「…って、こいつ変型するのかよ…おい…すっげぇー…」

父親の言葉に目を丸くしつつも、グルンガストの通常飛行を維持しイルムはコンソールパネルに表示されている機能のガイドに沿ってスイッチを次々と入れて行く。

『あ。そうそう言うのを忘れていたが、変型と同時にコクピットが移動するようになっているからな。ちゃんとシートに深く座っておけよ』

突然モニター越しから、父親がにっこり笑ってマイクに向かってそう話してきた事に、スイッチを手早く入れていたイルムの手が思わず止まり

「もっとそれを早く言えぇえぇえーーーーーーっ!!」

と、イルムはそう叫んだまま自動的に開かれた後部ハッチへ、シートごと消えていった。




「くそ… あのバカ親父… 死ぬかと思った…」

ぜぃぜぃと肩で息をしつつ、シートにしがみついて事なきを得たイルムは、移動した先のコクピットの移動が、とんでも無い所へ移動した訳ではなく、ただ、グルンガストが変型すると同時にコクピットの位置に補正が掛かるために、頭部コクピットが微妙に展開しただけだと言う事が判った。

「えーと…ウイングガスト…だよな…」

人型形態のグルンガストと違って、戦闘機形態のウイングガストのコクピットは僅かだがシンプルな作りになっており、直ぐにどんな形態か把握したイルムは、ニヤリと笑って研究所周辺の空域から一気に海上へと向かった。

『こらこら…っ 基地周辺空域から出るんじゃない。許可は一応取ってあるが、海上へ出ると連邦軍のエマージェンシーが…』

子供の頃は、親である自分のような科学者に憧れていたイルムであったが、中学生になってから自分が科学者の器では無いことに気付いたのか、卒業と同時に士官学校へ進む事を選択した。
当然ながら、父親のジョナサンはそれに反対する事はなかったが、もともとイルムが科学者ではなく、戦闘機乗りに憧れていたことを知っていたので、それに似たものを製作しては誕生日に贈っていたのだ。
そんなイルムの心情を知っていた同級生で幼なじみのロバートは、元来科学者気質だった為にイルムが諦めた道を進む事にし、今ではジョナサンの隣に居たのだ。

「えー 折角のテスト飛行じゃねぇかよー」

父親の言葉にイルムは少しだけむう…と頬を膨らませる。
普通なら、こんな特殊なロボットに乗り、それも音速で飛んでいるのにも関わらずこれだけ余裕のある会話が出来るのは、かねてより鍛えられた身体と精神だけでなく、コクピット内の環境を一定のバランスに保つようなシステムがグルンガストには搭載されていたからだった。

「…っ」

ふと、そう言ってからイルムの頭の奧に、チリっと何かが触れて来た気がして顔を上げる。

「…なんだ…これ…」

電気が走るような刺激で、それでいて人の思念の様な機械的ではないものの存在の違和感。
イルムはスティックをぐいと握りしめ、超低空飛行に変更して連邦軍のレーターに引っかからないように操縦を始めつつ首を傾げた。

「親父ー このグルンガストさー 音声認識装置以外なんか搭載してるかー?」

ふとイルムは普通に抱いた疑問を、モニター越しの父親に質問する。
その瞬間、父親の顔が再び曇ったのだがモニター越しなためか、流石にイルムも僅かに表情の機微に気付く事はなかく、

『あ、ああ。いろいろシステムの制御の関係でな、今回初めて脳波制御装置と言うものを搭載してある。まあ、今の所は別に気にしなくていいぞ、実戦に使う時に必要になるかもしれんが、まあそんな事はないだろうからな…』

と、ジョナサンはイルムに向かってそう説明をするのだった。

《4》
ソニック・ブームを轟かせ、海上水面ギリギリをウイングガストが飛翔する。
イルムの思考を読んでいるかのように、ウイングガストは連邦軍のレーダー網の範囲ギリギリの位置を計算し、モニターにそれらを弾きだして行くルートを選び、イルムはその通りに飛ぶ。
レバーを握りしめ、生命維持装置で守られたコクピットでも僅かに感じるGの感覚に自分の父親がどれだけ凄いロボットを製作したのか身を持って体験していたのだ。

「すげえ… 俺…操縦してら… シミュレーターのスティックしか握ったことなかったのに…」

脳波制御装置が作動しているお陰で初めて操縦しても、総て内蔵されたコンピューターが補正を行いセミオート状態で飛行が可能であったため、イルムは自分が思い描いた通りに飛行するウイングガストの性能に感嘆の声を上げていた。

スピードが変化すれば、モニターに逐一そのデータが映し出され、フラップの長さが変動し調整する。
音声認識だけでもイルムにとっては信じられない機能であったのに、この脳波制御装置は更にその上を行く想像に絶し難い機能が満載であった。
ただコクピットのシートに座っているだけなのに何故、脳内で意識した事を半具現化してその通りにウイングガストが起動するのか考えつつも、多分このグルンガストはPTとは別に次期戦力として軍に導入される期待の試作機に違いないと、イルムは考えた。

「…ま、親父は抜け目がねえからな」

今までだってそうだった。
自分に誕生日プレゼントと称して渡され、死にかけてきた数々の発明品の殆どが現在軍用化され、それによってテスラ・ライヒ研究所の“ジョナサン・カザハラ”は此処まで来たのだ。
当然ながら普通なら自分を何度も試作機のテストさせるような父親を本来なら好きになれるはずがないのだが、持った気質というか、それ以上に自分が本当に愛され大切に育てられていた事に気付いていたし、男手1人でここまで一生懸命に育ててくれたというのを身を以て知っていたからこそ、父親の力になりたいと思っていたのだ。

「さて…と、そろそろ帰るか」

飛行時間と航空空域のチェックをして、そろそろ限界かも知れないと感じたイルムは、飛行航路を変更するようにコンソールへ打ち込んで指示をし、モニターでそれらの変更を確認してから一度ぐいと背伸びをするように身体を反らしてから、スティックを握りしめた。








「…どうだ? 01は悪夢に気付いた様子かね」

プラットホームのコンソール前でグルンガストから送られてくるデータをチェックしているジョナサンの表情が暗く翳っていた所へ、背後からコバヤシ博士と外部からの招聘学者であるギャラガー博士が現れた。

「息子をその名前で呼ぶのは止めて頂きたい。まだテストなだけで…搭載は決定していないんだがらな」

顔色が余り思わしくないジョナサンは、コバヤシ博士のその発言を取り消すように顔を上げた。
その表情を見て、コバヤシ博士は小さく頷き、

「…貴方の息子さんは…飄々としてはいるが…あれで…なかなか聡いからな…」

と、モニターに打ち出されたデータをチラと覗き込み呟く。

「…悪夢の存在には気付いてないとは思うが… 封印しよう。やはりこの計画は無謀すぎる。パイロットを消耗品として扱うこのシステムは…」

ジョナサンの表情は、自らの進退を賭けてもこの計画を中止しようという意気込みを感じさせる程のものだった。

「息子さんに、何かあったんですか?」

滅多に見せないそんなジョナサンの表情に、ギャラガー博士はふと、問い掛けるが、

「……いや」

ジョナサンはそう一言だけ呟き、首を振ったのだった。

ナイトメア計画(スーパーロボット大戦/外編)

この作品は、昨年初頭に合作として企画されたものでしたが、諸事情で頓挫してしまったものです。設定、ストーリー共に秀逸なものだと自負しているものでしたので、このまま埋もれさせてしまうのは勿体無いと思い、再度陽の目を浴びされてみました。
完結していない作品ですが、よろしければ読んでみてください。

まずは、細かい設定からです。


◆当サイトの作品を読むに当たっての、設定用語集になります。
本来の意味とは異なるものもございますので、総てが正しいものと考えないで、当サイトのみの設定としてお読み下さい。



◆ナイトメア・システム(ナイトメア計画)
現T?LINKシステムと、ブーステッドチルドレンを生み出すベースになったシステムの一つで、余りにも非人道的なシステムであった為、同時進行で行われていたロボット開発チームと上層部の却下案が出た為、計画自体凍結される。
ナイトメアとは「悪夢」の事で、実験に選出された優秀なはずの軍人達が全員そのシステムに取り込まれ、廃人になってしまった事から不吉な名前がコードネームとして名付けられた。
実験後、本来はテスラ・ライヒ研究所でSRX計画の一環として開発された対異星人戦闘用スーパーロボットグルンガスト壱式に設置されるはずだったが、ジョナサン・カザハラ博士とロバート・H・大宮博士の反対にあい、装備はされなかった。が、実はブラックボックス的に、イングラム・プリスケン少佐によって、無断で装備されており、その為にT-LINKシステムの制御バランスを崩し起動しなくなっている為、マニュアルでの操縦となっている。

◆マンマシーン・インターフェイス(MMI)
ナイトメアシステムを起動させる為のハードウェアの事。
素体となる人間と、ナイトメアシステムを繋ぐ為に必要なもので、これがなければナイトメアシステムを搭載したロボットは起動しない。

◆コクーン01
ナイトメアシステムを起動させる為の素体である人間が入る特殊装置試作型。
初期は事故で四肢が動かなくなったパイロットの頭脳を取りだし、その頭脳だけを格納した特殊ケースの事を指した。

◆コクーン02
ナイトメアシステムを起動させる為の素体である人間が入る特殊装置の完成型。
素体であるパイロットがナイトメアシステムに管理される為の特殊プラグケース。繭玉型に近い形状の為にそう名付けられた。パイロットは、コクーン内で生命維持管理され、脳神経直結伝達増幅装置や動態処理姿勢制御装置に接続される為、首筋や背中にデータを処理する為のコードを装着するスリットや、免疫抑制剤や脳内反射を促進させる化学物質を注入する為のプラグホールがあり、コクーンに直付けされコンピュータに管理される。

◆ナイトメア・ゼロワン
特殊脳医学研究所に所属している謎のパイロット。ナイトメア計画の核になる人物に対して呼ばれるナンバーのひとつであり、コードネームでもある。過去に何名かそのナンバリングで呼ばれた軍人がいたが、既に総て登録が抹消されており、唯一現存するナンバーがゼロワン。
ある日突然、戦場に黒いグルンガストで現れ超人的な対応で敵機を撃墜して行き、ミッションが終了と同時に姿を消す。その後、何度もそういう機会が起きるがパイロット達には味方と言うことだけ上層部より知らされ、名前もゼロワンとだけしか伝えられていない。当然ながらその存在自体が特別機密状態な為に、パイロット達はその正体を誰も知らない。

◆ナイトメア・シンドローム
ナイトメアシステムの多用によって素体となる人間に引き起こされる副作用、またはその症状全般の総称、Nシステムの名前の由来ともなる。主な症状は投薬とくり返されるシステムの負荷が脳または脳幹を退化させ、外部刺激に対しての神経反射が徐々に低迷していく。システムに接続している間のみ症状が緩和される為、研究調査対象者に過負荷が掛かり、残念な事にデータとる前に素体が死亡するケースが多い。

◆ナイトメア・浸食率レベル
ナイトメアシステムを多用したパイロットに起きる症状の浸食レベル。症状からナイトメア・シンドロームとも呼ばれる。段階は4段階に定められており、浸食状況によって各症状がカテゴリーAからカテゴリーDまで段階づけられている。
・カテゴリーD
戦闘後、もともとの脳内物質とナイトメアを起動させるために投薬された薬物によって精神高揚状態が続き、戦闘前後の記憶が曖昧になる。また通常な状態でも戦闘時に味わう高揚感から抜けきれず、その落差に躁鬱状態になり、安定剤を支給しなくては通常生活が出来なくなる被験者がいた。
・カテゴリーC
免疫抑制剤、身体機能調整剤、脳圧抑制剤、脈拍安定剤、血圧抑制剤、感覚増強剤などの大量の投薬により、脳だけでなく身体にも過負荷が掛かり常時安定剤の投薬が必要となって戦闘時以外、通常の生活が不可能になる。被験者によっては、自らの脚で歩行が不可能となり補助椅子等で移動をしなれけばならなくなる。
・カテゴリーB
ナイトメアとの結合時間過多、大量の投薬による身体機能の低下により意識が混濁し、戦闘時以外覚醒している事ができない被験者が大半を占めるようになる。また心臓への負荷も著しく、人工心肺へのパイパスを心臓へ直に埋め込み心臓の運動機能を管理しなくてはならず、更には被験者によっては四肢が壊死、脳内インプラントからではなく脳そのものからダイレクトにナイトメアへ接合しなければ戦闘データが得られず、脳のみとなった被験者は長く保っても一週間程度で死亡する。
・カテゴリーA
現段階では、唯一存命しているゼロワンがここにカテゴライズされると思われる。

◆グルンガスト壱式・改(通称・黒いグルンガスト)
形式番号/SRG-01-1・オメガ
開発/ジョナサン・カザハラ
ロバート・H・オオミヤ
システム開発/ドナ・ギャラガー
ケンゾウ・コバヤシ
イングラム・プリスケン
製造及び改造/テスラ・ライヒ研究所
特殊脳医学研究所
生産形態/試作機・改
動力源 /トロニウム・エンジン
MMI/脳神経直結伝達増幅装置(ナイトメア・システム)
動態処理姿勢制御装置
音声入力式武器選択装置
搭乗者/ナイトメア・ゼロワン
備考/改は、ナイトメア・システムとトロニウム・エンジンを搭載した為に、壱式と異なり飛行形態のウィングガスト、重戦車形態ガストランダーへの変形機構は排除された。また「改」とは名ばかりで、実はDC戦争中にテスラ研でオーバーホールを受けていたが、その後の消息は不明になっている2号機ではないかとも噂されている。

◆グルンガスト壱式
グルンガスト零式の機体フレームとPTX?007?02ゲシュペンストMk?II・タイプSのデータを基に、テスラ・ライヒ研究所が開発した対異星人戦用スーパーロボット。高い汎用性を持ち、飛行形態ウイングガスト・重戦車形態ガストランダーに変形が可能。さらに、操縦の補助システムとして、脳波制御装置と音声入力式武器選択装置が搭載されている。
比較的乗り手を選ぶグルンガストシリーズの中では最も総合バランスに優れ“超闘士”という異名を持つ。ただし、格闘戦・剣撃戦用を前提として開発された機体であるため、中・長距離戦は若干不得手。
また、変形機構の複雑さから小型化がままならず、メンテナンスが困難であるという欠点も持つ。他に同型機が2機存在する。
また、頭部には5つのバリエーションが存在し、1号機と3号機は「星型」2号機は「獅子型」が装備されていた。なお「鷹型」はグルンガスト弐式の頭部の原型となり、「龍型」「虎型」の頭部は後継機に使用される予定だと言うが、定かではない。

◆本来のグルンガスト・改(SRWαでイルムが搭乗して現れた機体)
SRG?01C グルンガスト改式
テスラ=ライヒ研究所で開発されたSRG?01グルンガストを強化改造した機体。弐式のプロトタイプでもあり、形状はほぼ同じ。
その機体色から「ブラック」の別名を持つ。動力源はトロニウム・エンジンに換装されており、機体の強度を補う必要性から変形機構はオミットされている。さらにヒュッケバインMK?IIに採用されたグラビコン・システムを搭載しているため、飛行が可能。試作機でありながら、総合的な性能はグルンガスト弐式を超えている。
防御兵装
グラビティ・テリトリー

◆ニューロ・コンピューター
ューロコンピュータとは、脳を構成する神経細胞が神経回線網を張り巡らせることで情報処理を司るという動作を基本原理とするコンピュータ。
ニューラルネットワーク制御(知的制御の1つ。システムの入出力信号をもとにしてニューラルネットによって非線形な入出力関係を再現し、それを制御対象とする制御手法。)を基礎理論とする。
作中では、グルンガスト壱式・改に搭載されているコクーン内のコアに充る生身の人物の脳へ脳波インプラント処置を施し、そのままニューロチップと接続、コアになる人物の脳をニューロコンピュータとして扱っている。その為、コアになる人物の肉体には非常に過負荷が掛かり、特に脳が焼き切れない為の投薬や、心肺強化などの処置が行われる。

◆ゲイム・システム
ゲイム・システムとは、DCの副総帥アードラー・コッホの開発したいうマン・マシーン・インターフェースの事である。このシステムは搭乗者の感覚を拡張するものであり搭乗者の情報把握能力を拡張して戦闘能力を向上させるが、極めて効力の高いゲイム・システムはその一方で欠点も多く、戦闘の生む高揚を無制限に増幅していき最終的には暴走状態にしてしまうという副作用があった。事実、戦闘開始後すぐに救出されたシャイン王女を除く搭乗者二人は共に暴走して死んでいる。
パイロットは2号機にテンペスト・ホーカー、3号機にテンザン・ナカジマが搭乗。1号機(4号機の可能性有り)にはシャイン王女が乗ってはいたが、これは予知能力を提供する生体パーツの要素が強く実際には自動操縦であったと思われる。 尚、シャイン機は王女の救出後コクピットブロックを換装したうえでヒリュウ・ハガネ隊でL5戦役終了まで使用された。
兵士養成機関「スクール」の創設者でもあるアードラー・コッホの開発したゲイム・システムと、完成したナイトメア・システムは、似て非なる存在と言えるかもしれない。

''Libera me'' from hell 《1》

「へえ…そんなにしてまで生き延びたいかねえ? 俺なら…」

眼帯の男はそこまで言うと手にしていた倭刀を振り翳し、地べたに這い蹲って飛蝗の様にぺこぺこと命乞いをする野盗1人の首を軽く一閃して薙ぐ。
首を薙がれた野党の1人は、何が起きたか判らないと言った表情のまま、勢い良く薙がれた首から血を噴出させつつ、地べたにくたりと身体を落とし、同時に首はその勢いに併せるかの様に軽く跳ねる様にして飛び、地べたに転がった。

「いいか、てめえら。俺はちいっとばかり虫の居所が悪い。だから、少しでも俺の気分を損なうようにことがあれば、ここでくたばったこいつみたいな最期を迎えると思いな。」

そう言うと眼帯の男は、断末魔の悲鳴を上げる様に、ビクビクと痙攣を起こし暴れる首を落とされた体に向けて、再び刃を落とす。
見事な切れ味のそれは、胴を真っ二つに切り裂かれ、二度と再び動くことはなかった。
そして血に汚れた刃を軽く一度振り、その血を落とす。
同時に自らの手にかかった血を拭うことなく、ペロリと赤く尖った舌先で舐め取るその仕草一辺通りに、野盗の一味は背筋が凍る思いに駆られた。

軽く羽織った深紅のマントと、漆黒のジャンパーの下から覗くその眼帯の男の顔には幾筋もの瑕があり、更には身体はとてもこうして生きているとは思えないほどに瑕だらけで、藍に染められた元々はきっと美しい紋様だったであろう刺青も、その瑕の治療痕でで見る影もなく崩れていた。

「…チッ。 今日は傷が疼きがる。なんだってんだ…  くそっ!」

眼帯の男は、中でも致命傷だったと思われるほどの酷い胸の瑕を指で押さえるようにして呟くと、その瑕の疼きに忌々し気に唾棄し、

「おい。気が変わった。お前ら…奴等皆殺しにしとけ。俺等の縄張りで盗みを働いたんだ、それくらいの代償は当然だからなあ」

そう言うと、自分の後ろに控えている数名の部下に向かって軽く顎で捕らえられ震えている野盗達を差した後、眼帯で隠れてない方の紅い目で、その野盗達を見下すようにして一瞥する。
そして、その紅い目に昏い灯火が点るとニヤリと歪んだ笑みを浮かべた。







「…いったい… どうしちまったんだ…まったく… こう毎夜こんな夢を見たら…気が狂っちまう… くそ…っ」

アジトに戻ると、眼帯の男はアジトにいる女達の手を振り切り早々に自らの部屋に篭り、テーブルの上においてあった酒瓶や果物の乗せられた皿を手で薙いで床に叩き落としそのテーブルを何度も蹴る。
その姿は、まるで癇癪を起こした子供のようだった。

「…おやっさん…助けてくれよ… 俺の夢に出てくるやつは…何者なんだよ…」

陽に焼けてくすんだ色をした空色の髪をバリバリと掻き毟り、そのまま床へと蹲る。
夢に出てくる少年は無言のままとても暗く、そして悲しそうな眼で自分を見詰めて来るときもあれば、辛そうな表情で声にない声で自分の名前を呼んでは消えてゆく。
いったいそれが誰なのか、彼には皆目見当が付かなかったが、あまりに毎日夢に出てくるために、自分は狂ってしまったのかもしれないとも思い始めていた。

「何が言いたいんだよ… いったい俺に何を訴えてんだよ…」

そして夢の少年は、気付くと幻になって見えるようになり、そして彼の行為を咎めるように、日に日にそれは鮮明なものになってゆく。
そして気付けばその少年の顔がはっきりと判るまでになったのだが、どう考えても彼には記憶にないものでしかなく、イライラはピークに達していた。

「ちゃんと言葉に出来ねえんなら、お呼びじゃねえんだよ。とっとと消えやがれ…」

胸の瑕痕を掻き毟るようにして蹲まった身体を起こし、そう幻の少年が佇む壁に向かって睨みつけ吐き捨てた。







今でこそこうして自由に動き回れるが、その実こうしていることが奇跡の様なほどの大怪我をしたまま小高い丘で呆然と立ち竦んでいる処を、この盗賊団の初代が拾ってきたのが始まりだった。
酷い瑕と出血からなのか、彼を救った盗賊団の頭の下で目覚めた時には既に片眼は視力を失っており、もう片方の眼も生活するには支障のない程度の視力しか残っていなかった。
それでも盗賊団の頭は、彼を拾った責任からか、それとも何か思うところがあってなのか彼が1人で動けるようになるまで面倒を見続けた。


盗賊団同士の抗争に巻き込まれ、死ぬまでは。


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