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拳銃(種)

この闘いが始まった当初、フラガは一応AA内では唯一の、マリューと同等クラスの尉官だったので、部屋割りの際、優先的に個室があてがわれていた。
だが、2人部屋や4人部屋が当たり前だった今までからすると、個室生活に慣れていないフラガとしては、ついつい自室で過ごすよりもラウンジでただ、何となく過ごしている時間の方が長かった。

「あれ? フラガさん。何していらっしゃるんですか?」

ラウンジにしか設置されていないドリンクベンダーてジュースを購入するために入って来たサイは、ラウンジの片隅で大きな身体を少し丸めるようにして、何かを真剣にしているのに気が付き、フランがの側へと近づいていった。

「んーー?」

声を掛けられ、フラガは小さく伸びをしつつ、間延びした声で振り返る。

「ああサイ、何だ? 今頃。寝られる時に寝とかなくちゃ、ダメだぞ」

唯でさえ搭乗員のままならないAAで、CICだけでなくオペレートもこなせる要員は貴重だった。
特にサイは優秀で、ノイマンやトノムラが僅かに教えただけで、ある程度の機材を扱えるようになっていたのだ。

「ああサイ…じゃありませんよ。こっちが聞いているんですけどね…。それにフラガさんだって、休まれたほうがいいですよ。キラもアスランって人もちゃんと休んでるんですから」

だがサイは、そんなフラガの心中を察する筈もなく、苦笑しながらフラガの身体で影になっているテーブルを覗き込む。

「…? 何です、これ?」

テーブルの上には、小さなスプリングやネジ、それに見たことのあるフォルムの部品が所狭しと拡がっていた。

「あーー、これ? これね。銃のメンテしてんの。こうやって時々は掃除しとかないとね…ヤバイんだよね。」

そう言ってフラガはにっこりとサイに向かって微笑み、再びテーブルに向かう。
オイルやブロアブラシ、セーム皮で部品のひとつひとつの汚れを丁寧に取り除いてゆく。
フラガの無骨で、何処か不器用そうな指が、手慣れた動作で作業をこなしている姿を、サイはじっと見詰めていた。実際は、フラガは不器用などではないのだろう。でなければ、パイロットの様な繊細な仕事は出来ないだろうから。

「ん? どうした?」

背後から、息を殺すようにして覗き込んでくるサイに対し、フラガは再び振り返り、小首を傾げて問い掛けてみた。
オレンジ色のグラス越しの優しげな瞳が、何かを訴えたくても、それを言葉に出来ないでいる様だったからかもしれない。
一方サイは、少し戸惑いを見せながらも、

「…こんな事、聞くのは凄くフラガさんに失礼かもしれないんですけど…やっぱり…フラガさんって…その…軍人なんだから…えっと…その…」

と、自分の言いたい言葉が上手く言い表せないでいる様子だった。
そんなサイの様子を、フラガは椅子の背もたれに腕を廻し優しく笑みを浮かべながら、じっと見詰めていた。
フラガはサイが何を言いたいのか、直ぐに判ったからだ。

「あーー最後まで言わなくても言いたい事は判るよ。…うん。そうだね、撃った事あるよ。勿論、人をこの銃で殺した事がある。正当防衛だとかそんなのじゃなくて…その時、自分には撃って人を殺す必要性があったから。」

フラガは敢えて、サイが自分に聞きたかった問いに対し、嘘偽りや虚飾した言葉ではなく、ストレートに答える事にした。
それが今のサイには、必要だと思ったからだった。
へリオポリスで、この子達はのんびりと、戦争とは全くと言っていいほどかけ離れた場所で、普通の学生していたはずだったのに、大人達や地球連合とザフト、ナチュラルやコーディネイターとの闘いに、済し崩しのまま巻き込まれ、更には気が付けば戦場の最前線に立たされていたのだ。

本人達の意志など全くと言っていいほど無視をされた形で。

そんな中、彼等は彼等なりに、一生懸命大人の軍人達に混ざって、自分達に出来る事を出来るだけしようと努力して来ていた。言葉通り死に物狂いだっただろう。
本来ならば、まだこの子達は、守られる側にいるべき筈の子達なのに。

不甲斐ない大人達に翻弄されて。運命に翻弄されて。
見ている方が、痛々しくて見ていられないほどだった。
フラガのそんな言葉にサイは小さく俯いていたが、唐突に意を決した様におもてを上げ、

「…フラガさん。僕たちにも、それ…必要なんですかね?」

バラバラの部品になったままの銃に視線を注いだまま、そう言葉を紡いだ。
その言葉に、思わずフラガは一瞬ドキリとして、思わずサイの顔を見直してしまう。
だが、その瞳は真剣そのもので。
フラガの胸は、締め付けられる様に痛んだ。

「こんなモノ、持っちゃいけない…。お前達の様な子供が…持って良いモンじゃない。これは……」

物静かで思慮深いサイが、何も考えずにそんな事を言い出す筈がない。
きっと色々考えた末に打ち出した答えであり、言葉なのだろう。
だが、銃を持つと言う意味の重さがどれほどのものか、まだ判っちゃいないのだ。

この少年は。

フラガがも言葉を続けようと口を開きかけた瞬間。

「…ありがとうございます、フラガさん。僕は…キラやディアッカや…アスランって人みたいに力がないから…みんなを守れる力が無いから…でも何かしなくちゃ…って思って…済みませんでした…ごめんなさい。僕の迂闊な言葉がフラガさんを悩ませちゃったみたいですね。本当に済みませんでしたっ! 失礼しましたっ!」

と、普段口数が少ない筈のサイが、一気に捲し立てる様にフラガに向かってそう言うと、まるでラウンジから逃げるかの様に走り去って行ってしまったのだ。

「………って、おい…」

サイを引き留めようとして差し延べた手が宙を彷徨い、行き場を失ってしまう。
そしてフラガはその手を見詰め、思わず大きく溜息を吐くと、肩を落とす様にして俯いた。
何もしてやれない自分が歯痒い。
フラガがそう思っていると、

「…奴さん、煮詰まっちゃってんの?」

入れ替わるようにして違う子供が入ってきたのだ。

「…何だ、ディアッカか」

どっと疲れを感じたフラガは、ディアッカの姿を横目で確認すると、そう言って中断していた作業を始める為に再びテーブルに向かう。

「なんだデッアッカはないんじゃないの? それに…追っかけなくてもいいの? アイツ」

入り口の壁に背を凭れかけさせながら、ディアッカは親指で通路を示しそう言う。

「…追っかけて行ってどうすんの。今の俺じゃ、掛ける言葉見つかんないよ。それにこればっかりは他人がとやかく言える問題でもないし…酷かと思うけど、自分で判断して、自分でケリをつけなくちゃあな…」

フラガは目を眇めながらディアッカに向かって、そう答える。するとディアッカは、

「へえ…結構あんた、冷たいんだ」

と言いながらラウンジへと入ってきた。
フラガはディアッカの考えている事が今ひとつ読めなかった。
キラにしてもアスランにしても、とても判りやすいタイプで、今何を考え、何をしようとしているかが手に取るように読めたのだが、このディアッカはそうはいかなかった。
子供の癖に、自分が抱いている本当の感情を一切隠して、飄々としており捉らえどころがないのだ。
時々、自分を見ている様で仕方がない。
フラガはディアッカに対して、そんな風に思えて仕方がなかった。

「冷たいとかそういうのじゃなくて、俺はただ、出来るだけ子供に必要の無いモノは持たせたくないだけなんだけどね」

肩を竦め、そう言うフラガの姿を見ながら、ディアッカはフラガの側まで歩み寄るとテーブルの上に拡がっている銃の部品のひとつを指で摘み上げ、自分の目線の位置にまで持ち上げると、しげしげと角度を変えながら眺め、

「でも、おれたちは持ってるよ? ザフトのヤツだけど」

と、目を細め笑みを浮かべつつ、空いている片方の手で腰のホルスターから銃を抜いた。

「…で、人を殺した事は?」

フラガはそんな飄々としたディアッカに対し、少し苛つきを覚えてしまい大人気ない質問を思わずしてしてまう。

「…ヤな質問する人だな、あんた…とは言うものの、おれはまだ一度もこれで人を殺した事はないね。勿論MSでなら数え切れないくらい大勢殺してるだろうけど、残念ながら…って言うのかな、銃ではまだひとりも殺ってない。それに…これは飽くまでも最後の手段だからな。護身用でもあり、自決用でもあるからね…」

眺めていた部品をテーブルに戻し、ディアッカはフラガの向かい側に座って持っていた銃をテーブルの上に置く。

「…自決…用…か…。そうか…そうだな…」

ディアッカの科白に、フラガの表情は途端に曇ってしまった。
大人気ない質問をしてしまったばっかりに、この飄々とした少年の口から出た言葉が現実を突きつけて来たからだ。
コーディネイターの軍人とは言え、ディアッカだってまだ17才の子供だ。
そんな子供の口から、余りにも簡単に銃が自決用なのだと言い放たれたのだから。

狂っている。
こんな世の中、狂っているに違いない。
子供にこんな事を言わせてしまうなんて。
そうフラガが思った時、

「…でもももういらないかな、これ。だってさ、おれ自決なんかしたくないからね。今、おれには守ってやりたいって思うやつが現れて…どんな事があっても生きてそいつの事守ってやりたいって思ってて。だからかな、死にたくないって思うようになったんだよね。これって軍人としちゃあマズイ事なんだろうけどさ、でも死にたくないものは死にたくないもんな。…だからこれはもういらない。」

ディアッカはテーブルの上に置いた銃をフラガの方へと差し出して来た。

「連合とザフトじゃ規格が違うから流用は出来ないだろうけどさ、まだ中身は残ってるし、カートリッジもある。廃棄するなりなんなりしてくれよ。…これはあんたにしか頼めないことだからさ」

そしてそう言いながら立ち上がると、そのままふらりとラウンジから去って行こうとした。

「ディアッカ…っ」

そんなディアッカを追うように、フラガは立ち上がる。するとディアッカは、

「だからさ、おれなんかよりもナチュラルのサイの方を心配してやれよ。優しすぎるのも、時には酷だと思うんだけど。あいつ、真面目そうだからさ…大人が助けてやらないでどーすんの。牙が欲しいっていうなら、与えればいいんだよ。んで、間違った道に進みそうな時に、その道を大人が正してやればいいんだから…だろ?」

と口元に小さく笑みを浮かべ、そう言いつつ、掌をひらひらとさせて去って行ったのだ。

「…はぁ」

フラガはディアッカが去っていった入り口を眺めながら、再び大きな溜息を吐く。
自分は銃に対して、拘りすぎたのだろうか。
フラガはふと、そう思ってしまった。
MS戦と比べて銃は、人と対峙し直に生死を体験してしまう為に、出来れば子供達には持って欲しくないと思うのは大人のエゴなんだろうか…と。
子供達は子供達なりに、戦時下と言う事でそれなりに覚悟を決めていたのかもしれない。

「でも、持って欲しくないんだよ…本当に…おれとしては…」

誰もいないラウンジで、フラガのその呟きは静かに闇に消えた。
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