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パル(種)

深夜、CICデッキから仮眠を取るために、パルは居住エリアへと向かっていた。
眠い目を擦りながら静まりかえった通路を歩きながら、ふとこの半年で居住エリアで生活している兵士の数が3分の1に減っていることに気が付いた。
ヘリオポリスでの事件以来、補充人員すら無かったこの艦で、よくもここまでこの人数でやってこれたと思う。
そして、更にアラスカ基地で減り、オーブで艦を降りた兵がいて。
今ではもう、乗組員全員の顔と名前が一致してしまうくらいの数にまで減っていて。
減ることはあっても、決して増えることのない人数。
それを考えると、流石のパルでも気が重くなる。
この虚しい闘いは、いつになれば終結を迎えるのだろう…と、最近頓に思うようになっていた。


「…っ」

と、その時。
何処からか小さな呻き声の様なものがかすかに聞こえてきた。

「?」

一瞬パルは、空耳かと思ったのだが、やはり僅かながら聞こえてくるので、その呻き声が何処から聞こえてくるのかとても気になり、思わず聞き耳を立ててみた。

「…っ!!」

そして、その押し殺した様に小さな呻き声が、例の捕虜だった、旧ザフト兵のディアッカという少年が寝起きしているベッドルームからだというのに気が付いたのだ。

フラガ少佐(旧だが)の采配でトラブルが起きない様にと、一般兵のベッドルームより一区画離れた士官クラス達の部屋にほど近いベッドルームを充てがわれていたディアッカという少年は、若いながらも流石にコーディネイターらしく、周囲の空気をいち早く読み、今自分が何を一番求められているかを瞬時に判断し行動できる、とても聡い少年だとみなで話していたのだが、この声は普段の少年からはとても想像出来るものではなく、パルは気になり足早にベッドルームへと向かった。

「…ごめんよ」

薄暗い二段ベッドが一対向かい合う様に並んでいる、狭い部屋。
多分、ザフトにいた頃と比べ雲泥の差のある部屋だろう…と、パルはなんとなくそう思いながら部屋を覗き込む。
するとそこには、まるで胎児の様に身体を小さく縮こませ、通路に背を向ける様にして眠っている少年がいたのだ。
そして時折、酷く苦しそうに、嗚咽にも似た呻き声を上げていたのだ。
パルは、その声で一瞬のうちに悟った。
この少年は、自分達が考えているほど強くはないのだと。
遺伝子操作によって、肉体や能力、外見は自由に選択出来るのがコーディネイターなのかもしれない。
だがしかし。
心はどうなのだろう。
幾らコーディネイターとは言え、生まれ持った気質や性格、そして後天的な人格というものは改竄しようがないのではないのだろうか…と。
そしてこの少年は、本来とても心根の優しい、ごく普通の少年なのではないかとパルは思ったのだ。
そうすれば、全て合点がいった。
そうでなければ、オーブでこの艦を守るという事など選択はしなかっただろうし、アスランと言う名の少年がザフトの軍服のままに対し、この少年は捕虜から解放され自由の身になっても尚、あの赤い軍服の袖に手を通そうとしない。
人が側にいる時は必ず軽口を叩き、多少シニカルな笑みとは言え、決して笑みを絶やさない。

「…そんなに、無理しなくたって…いいのに…」

パルは少年が蹲る様にして眠るベッドの縁にそっと腰を下ろし、薄暗い通路の安全灯の幽かな明かりでもよく判る、ひよこの羽毛の様な、そして真夏のひまわりの様な明るい金色の柔らかくふわふわした巻き毛にそっと触れてみた。

「俺たち大人が不甲斐ないばっかりに、子供にこんなに辛い思いをさせて…戦わせて…いったい何様のつもりなんだろうな…。お偉いさん達はそれで高見の見物を決め込んで……俺たちは捨て駒になる為に志願して兵隊になった訳じゃない。平和が来る事を信じて…平和を願って…兵隊になったのに…」

不器用にぎこちなく少年の金色の髪に触れていたパルは、その手を自らの胸元へと移動させ、もう片方の手でぎっと握りしめる。
先の闘いで、少年は旧自軍のディンやジンを何機も墜としていた。
それは、決して連合の機体を墜とすのとは意味が違う。
迷いがないはずがない。
仲間だった者達へ銃口を向けるのに、抵抗がないはずがない。
なのにこの少年は、やってのけた。
幾らコーディネイターとは言え、キラとは立場があまりにも違いすぎる。
そして、アスランと言う少年とも、どこか違う気がしていた。
勿論パル自身、確信があった訳ではないのだが、少年がラウンジで独り食事を取っている姿を見た時、パルはなんとなくそう感じていたのだ。

「…苦しんでたのに…気づいてやれなくてごめんよ…。キラの時もそうだったけど、俺たちはコーディネイターは何でも出来て当然。出来ない事なんか何もないって…勝手に幻想を抱いちまってたから…」

パルはそう言って口唇を噛み締める。
コーディネイターとは言え、所詮は人間なのだ。人間は飽くまでも人間以上のものになれる訳がない。
そんなに便利な存在に成れる訳がないのだ。

「…でも、今の状況じゃ……」

行き場を失った思いと言葉を飲み込み、パルは静かに立ち上がる。
幾ら自分がそう思っても、今の状況ではこの少年達に頼るしか、術が残されていないのも確かだ。
だから詭弁でしかない…パルは悔しかった。
それならばせめて寝ている時だけでも安息であって欲しいのだけれど、それすらも許されない、今が悔しい。
ぐっと涙を堪え、パルは部屋を出て行こうとしたその時、

「…あんたが気にするこたぁねーよ。自分が選んだ道なんだし……けど…心配して来てくれたんだろ…? あんた。 ありがと…う……もう、大丈夫だから…」

と、背を向け寝ていたはずだった少年がむくりと起きあがり、パルの方を見ていたのだ。

「…っ!!」

表情は判らない。
ただ、口許はいつもの様なシニカルな笑みではない事だけは、見て取れた。

「ナチュラルだとか、コーディネイターだとか関係なく、おれは…おれの為に守りたいものが出来て…それだけの為に残ったんだけど…今はそんな事よりも、あんたみたいに優しい人がいるこの艦を、純粋に心から守りたいって思ってんだ…。だから、大人なのに不甲斐ないとか言わないでさ、お互いまず、自分に出来る事をやろうよ、な」

そして少年はそう言うと、にっこりと微笑んだ。
自分がどんな顔をしてそう言っているのか、少年は全然気づいていない。
微笑んで…笑っているのに…泣いているのだ。この少年は。
そんな少年を見て、パルは余計に悲しくなってしまった。
17歳だなんて、本来なら遊びたい盛りだろうに。
自分が17歳だった頃を思い出してしまい。
戦争が、度重なる闘いが、少年達の心を強引に大人にしてしまったのだ。
そしてそれを奪ったのは紛れもなく大人達で。

「でもまだ君は子供じゃないかっ! こんな戦争さえなければ、君だって、キラだって、アスランって子だって…っ!」

思わずパルは再び少年の側へと駆け寄り、起きあがっていた少年の肩を掴み、声を荒らげてしまった。

「…もういいよ。ありがとう…おれなんかの為にそんなに怒ってくれて。本当にあんたは優しい人なんだな。人の為にそんなに怒れる人なんて、そんなにいないと思うよ…ありがとう…おれ、あんたたちみたいな人を守れる事を…誇りに思えるし…これからも戦っていけると…思う」

目を細め、少年は静かにパルに向かってそう言う。そして

「…もう、寝なよ。そいつ着てるって事は今までCICにいたんだろ? 軽くシャワーを浴びてとっとと寝ないと、他の奴らに迷惑がかかるぜ。お互いプロなんだからさ…頑張ろうよ」

と、パルの着ている軍服を指し、そう言うのだった。

「あ…ああ…、そうだね。ごめん…起こしちゃったりして。寝るのも俺たちの仕事だってのにね…」

少年の肩を掴んでいた手をそっと離し、パルは少しだけおろおろしてしまう。
何しろこんなにも声を荒らげる事など、最近なかったからだ。
だから、自分がこんなにも熱く話せる人間だったと言う事に対しても驚いていたのだ。

「…いや、起こしてくれた方が良かった。多分あのまま寝てたら、もっと悪夢に魘されてただろうからね…感謝してる…」

おろおろするパルを見つめながら少年は、何処か嬉しそうに薄く笑みを浮かべる。

「じゃ、おれはちょっとラウンジに何か飲みに行って来るけど…ちゃんと寝ろよ? くよくよしてたって、始まらないぜ?」

そう言って少年は、ハンガーに掛けてあるジャケットを羽織りながらパルの肩をポンと軽く叩く。
いつもの少年に戻っていた。
弱いけれど、強い少年。
それは、まるで自分とは正反対な存在で。
手をヒラヒラさせ、部屋を出て行こうとする少年にパルは、

「なあ…ディアッカ、これから食事をするとき、俺たちと食べないかっ! 独りで食べるより…ずっと楽しいと思うぞ」

と声を掛けたのだ。
この時初めて、パルは少年の名前を呼んだ。
『ディアッカ』と。
すると少年は、

「ああいいぜ。食事をする時間が合えば、一緒に喰っても」

と、背を向けたまま返事をしてきた。

「よしっ決定なっ!」

ほんの些細な事でもいい。この少年の心に少しでも安らかな時間を与えられるなら、努力を惜しみはしない。
それが少年に対して自分が唯一出来る、僅かな事なのだから。
パルはそう思いながら、少年の背を見つめていた。
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