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崩壊(種/死にネタ注意)

「何でだろう」

チャンドラは心の中で呟く。

「こんなはず、ない…」

何度も、訓練で咄嗟の処置の仕方は練習していたのに。
切っ掛けは、何だったのか。
チャンドラは思い出そうとする。
確か接近してきたジンを、対空砲火照射した処までは覚えていた。

だが。

インカムからミリアリアの悲鳴と、激しい爆音が聞こえたかと思ったら、その瞬間、無音となった。
何度コールしても返事のないブリッジに不安を覚えたチャンドラとパルは、インカムを投げ捨て、ブリッジに慌てて上がる。
そして、ふたりは、言葉を失う。




衝撃が激しかったせいか、スプリンクラーの作動はしていない。
被弾したブリッジは瓦礫の山で、まるで地獄の様で。
すぐに緊急用のシャッターが閉じ、幸いにもブリッジにいた人間は誰一人として宇宙へ投げ出されてはいなかったが、投げ出されても投げ出されなくても、一緒だったかもしれない。
投げ出されても投げ出されなくても、一緒だったかもしれない。
CICデッキから上がったパルとチャンドラは、その惨憺たる惨状に声すらあげる事ができなかった。

「艦長っ!! サイっ!! ミリアリアっ!?」

パルの叫びに漸く正気に戻ったチャンドラは、ショートし火花を散らしている場所に消火剤を撒こうと簡易消火栓のある位置を見て愕然としてしまった。

「…役にたたないじゃないか…よ…」

消火栓があるはずべき場所は、破壊されていたのだ。



一方パルは、血に塗れ、シートからずり落ちる様にしてぐったりとしている艦長へと駆け寄り、自分の着ている制服を強引に破って、それで艦長の腹部の止血をしていた。
ミリアリアは咄嗟にサイが庇ったのだろう。
頭部から酷く血を流しているが、サイほどではなかった。
だがミリアリアを庇ったサイの背中には、衝撃で折れたコンソールの破片が不自然なほどキレイにニョッキリと生えていた。

「サイっ!! サイっ!!」

半べそをかきながらミリアリアがぐったりとしているサイを抱きしめ、自分に血が付くことも忘れて名前を呼び続けている。

「血が…血が止まらないのぉっ!!」

サイの血に染まった両手を見つめ、叫ぶミリアリアの声からは、最早あの優しく可愛らしいものは微塵も聞こえない。

「…ディアッカ…ディアッカ…助けて……サイを助けて……っ」

縋りたい相手が傍にいない不安と恐怖から、ミリアリアの神経は擦り切れる寸前なのだろう。



そして。

パルが艦長の手当てを始めた頃チャンドラは、消火活動をするのを諦め、漸くブリッジ正面のパイロットシートのある位置に視線を移した。

だかそこには。
捻曲がって落ちたフレームや、酷く崩れた瓦礫の山があるばかり。
何処にもトノムラや、ノイマンの姿がない。


「…あっ」

瓦礫の下から僅かに見える白いもの。
それが何なのかは一目瞭然で。
チャンドラはのろのろと足を進める。
早く二人の元へ行って瓦礫を退かし、手当てをしなくては…と思ったが、なぜかチャンドラの足は縺れうまく歩き出せない。
今まで、最前線で戦ってきていたのに。
いつでも自分たちは「死」と隣り合わせな場所で戦っているのだと、自覚していたはずなのに。

「…と…トノムラ…っ!  ノイマンっ!」

転がるように瓦礫の山に駆け寄り、触れただけで火傷しそうほどまだ熱を持っている瓦礫の山をひとつずつ退かしてゆく。
早く早く早く…。
早く退かさないと、死んでしまう。
チャンドラは必死になってふたりの上の瓦礫を放り投げる。
時折、腹の底に響く地鳴りの様な音は、ほかの区画が爆発を起こしたり、誘爆を起こしている証拠だろう。
もう…AAは、沈むのかもしれない。
そんな昏い思いに捕らわれながらも、チャンドラは手を休められない。
すでに両掌とも、火脹れを起こし赤黒く変色を起こしていたし、傷ついた箇所から血に混じり嫌な色をした黄色い体液も滲み出ていた。

「あ…っ…トノム……ラっ!」

見知った少し大きめの掌を持つ腕が見えたため、、チャンドラはその手を掴み引っ張り出そうと力一杯引っ張った。
その時。

ずるり…。

何とも頼りなく、その腕が簡単に引っ張れたのだ。
そして。

「……ひっ!」

チャンドラは、まるで攣けを起こしたかの様に小さく声を上げ、息を飲む。
そう。チャンドラが抵抗なく簡単に引っ張れたのは、トノムラの腕が、肩口からしかなかったからだった。

「あ…っ  トノムラっ! トノムラっ! ノイマンっっ!?」

チャンドラはトノムラの腕を片手で抱え、もう片方の腕で瓦礫を必死になって退かし始める。
そのトノムラに繋がっていたはずの腕は、半分焦げており異臭を放っていたのだが、もうチャンドラにはどうでも良い事だった。
兎に角早く、この瓦礫の下からトノムラを、ノイマンを見つける事だけが目的になっていたからだった。

「そんな…トノムラっ!! おいっ返事をしろよっ! ノイマン…なあ、返事をしろってばっ!!」

悲鳴も、呻き声も聞こえない瓦礫の下。
まともに思考が働いていたら、腕を見つけた時点で瓦礫の下がどうなっているか判断できただろう。



そして、漸く一番大きな瓦礫を持ち上げた処で、チャンドラの表情が一気に冷える。

「…あっ」



そこに、既に息絶えたノイマンの姿があった。
いや、はっきり言えばその肉塊がノイマンかどうかなど判らない。
上半身は高熱によって炭化しており、下半身は瓦礫によって潰されている。
ついさっきまでは、確かに生きていたのに。

「…ノイ…マ…ン……」

チャンドラは抱きしめていたトノムラの腕を無意識のうちに、力一杯抱きしめていた。

「パルっ!! ミリアリアっ!! 早くここから脱出する準備を。悪いがパルは艦長とサイを支えて連れて行ってくれ」

すうっと目を細め、チャンドラは彼等に背を向けたまま、そう叫ぶ。

「えっ!?  チャンドラはどうすんのっ?」

何とか艦長の手当をし、抱き起こしていた処へチャンドラの言葉を聞き、パルは疑問を投げかける。

「…やらなきゃならない事があるから…後から…行く…」

俯いたまま、そう言った視線の先にあるものは。

「…判った。先に行ってるから…さ…、ミリアリア…早く行こう。ランチまで行けば救護班が待機しててくれるから」

艦長を抱き上げ、パルは正気を失いかけているミリアリアにそっと声を掛ける。

「…で…でもサイが……」

破って艦長の血止めに使った自分の制服の残りをミリアリアに渡し、パルはにっこり微笑んで、

「俺が支えて連れてくから…手伝ってくれるね?」

と、極力優しく言うように心がけた。心も身体も傷付いている少女を、これ以上刺激したくはないからだ。

「…う…うん」

パルに話しかけられ正気を取り戻したリアリアは、背中に刺さった破片に触れないようにサイを支えつつ、パルとともにゆっくりとブリッジを後にする。


「…チャンドラ、必ず来いよ。」

背を向けたままのチャンドラに掛ける言葉はなかったが、パルはブリッジを出て行く瞬間、振り返り、チャンドラの背を眺めつつぽつりと呟いた。



一方チャンドラの視線は。
確かに先ほどまでは、トノムラであっただろうものに釘付けになっていた。

「…」

静かに跪き、爆風によって一瞬のうちにバラバラになってしまっただろうトノムラの身体にそっと触れる。
瓦礫の発する熱によって温かいが、これは本当の温もりではない。
絶えてしまった生命に、温もりなどないのだから。

「…こんなとこに座るから……」

唯一の救いは、苦しまずに逝けた事ぐらいだろう。
こんな状態なのに、チャンドラは泣けない自分が情けなかった。
そして極力バラバラになったトノムラの身体を1ヶ所に集め、その上で抱き締めていた腕をそっとその上に置く。
センチメンタリズムを振りかざす訳ではないが、出来れば人の形にしておいてやりたかったのだ。

「じゃ…おれ、行くから…」

チャンドラはそう言って立ち上がり、トノムラとノイマンに向けて静かに敬礼をし、ブリッジを後にした。


まだリフト・グリップが生きていたためチャンドラはそれを掴み、ランチ用緊急発進デッキに向かおうとしたその時。
ブリッジの方から激しい爆発が聞こえてきた。
もう、一刻の猶予もない。
早く行かなければ、ブリッジからの爆風に巻き込まれ、艦外に放り出されてしまうのは必至だろう。
そんな考えかふと脳裏に過ぎった瞬間。
予想だにしなかった場所から爆発が起こり、その爆風に巻き込まれチャンドラは吹き飛ばされ、通路の壁面に激しく叩き付けられる。


「……ぅ」

チャンドラの口から、小さく吐息の様な声が漏れ。
そのまま意識は闇に飲まれていった。







「遅いですね、チャンドラさん。もう…最後のランチ、発進しちゃう…」

医療班に治療を終えてもらったミリアリアは、医療カプセルで眠りについているサイをチラリと見つつ、待ち続けているパルに向かって話しかける。

「そろそろ発進します、そこの方々、乗り込んで下さい」

ランチのパイロットは、外でチャンドラが来るのを待っているふたりに向かってアナウンスしてきた。

「…ミリアリア…サイと一緒に、もう乗った方がいい」

パルは気が付いていたのかもしれなかった。
もう、チャンドラが此処へは来ないという事を。

「で…でも…」

「外で、頑張ってくれてる人たちの為に、生き残るのも使命だよ。特にミリアリアは」

パルはそう言って、サイのカプセルをランチへと移動させつつ、ミリアリアも促す。

「じゃ、この子が乗ったら、発進して下さい」

パルは、ランチの搭乗口にいるマードックに向かってそう言うって、笑みを浮かべた。

「…お前さんは、どうするんだ?」

「…決まってるでしょう? 残りますよ…だって、チャンドラも、ノイマンも、トノムラも…いないんですよ?」

「……そうか。なら…仕方ない…な…」

マードックは、パルの泣いている様な笑みに向かって、そう言うしか術はなかった。

「じゃ、後の事、お願いします」

パルはそう言うと、ランチのドアを閉め、ハッチの開閉装置の側へと走って行き、ハッチを開くとランチのパイロットに合図を送る。


静かに滑り出て行くランチが視認出来なくなるのを確認すると、パルは敬礼をし通路へと向かいだした。




AAの落ちる瞬間だった。
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