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僕は 君が いったい 何を 考えているのか 判らない(Z&ZZ)

「後悔は…していないさ。それに後悔なんかするぐらいなら、始めからこんな処にいない…だろ?」

そう言ってカミーユは小さく吐息を吐くと、彼の神経質さを物語るかの様な鈍い輝きを放つフレームの眼鏡をそっと外し、疲れているのか眉間を指でぐいっとマッサージする。 
  
その表情からは当時の面影は影を潜め、毎日の仕事に疲れ切った男にしか見えない。

「でも…カミーユさん。」

そんな彼の表情を辛そうな面持ちで見つめながら、それでも答えを求めようとジュドーは上目遣いで問い掛ける。

だがカミーユの出した答えは、ジュドーの求めていたものではなかった。

「ジュドー、俺はね…俺にしか出来ない事をしただけなんだよ。そう…ジュドーが木星へ入ったのと同じ様に…ね。」

そして、微笑んでいた。カミーユは微笑んでいたのだ。
口元にだけ笑みを湛えた、何処か曖昧な微笑み。

「でも…今回の事が公になってしまったら…カミーユは…っ!」

がたり…と椅子を倒し、ジュドーは立ち上がり、興奮した様に彼へと詰め寄った。 
だがカミーユは、そんなジュドーに対し穏やかな表情で、まるで今後起こりうるだろう出来事総てを既に認識っているかの様な様子で、

「なぁ、ジュドー。俺も君もアムロさんも…シャアも、ニュータイプと言う名のカテゴリー内に全員ひっくるめられてしまっていたけれど、違うんだ。違うんだよ。アムロさんもシャアも俺も、君の様に外へと指向性を向けられなかった、在る意味発展途上中のニュータイプだったんだ。そしてこれからの時代に必要なのは、そんな出来損ないの存在なんかではなく…君の様な存在なんだよ。そう。そんな中途半端なニュータイプは人にとって不必要な存在で…滅ぶべき存在なんだ…。」

と、静かに呟く様に言葉を紡ぐその表情は、まるで夢を見ている様に薄い微笑を浮かべており、その感覚は以前、初めてカミーユに遭遇った瞬間の宇宙を感じた時に似ていた。  
 現在カミーユは、シェリー・クライムと言う偽名で此処、アナハイムエレクトロニクス社の技術研究員として働いており、サイコ・フレームの開発は彼が所属する研究室から生まれたものだった。当初、アナハイム社は連邦軍のモビル・スーツのみの開発を手がけていたがUC0083年以降、ネオ・ジオンへの武器供与をも始めたのだ。
そこから次第に「死の商人」としての確固たる地位を確立したのである。
カミーユは、ネオ・ジオンに武器を供給している側の研究室の開発技術者のひとりとしてサイコ・フレームの開発に携わっていたのだが、彼の後継人でもあるネオ・ジオンのシャア総帥からの指示によってその技術は、意図的に連邦軍側の研究室に流出させたのだ。
そしてそのサイコ・フレームは、シャアの示唆によってアムロ・レイが設計したRX?93νガンダムに、カミーユ自らの手によって搭載される事となった。

「そんなのおかしいよ。何てそんな事言い切れるのさ。おれからすれば、カミーユやアムロさん、シャアの方がずっと完璧なニュータイプだと思うぜ。特にカミーユは、おれの心を解放してくれた。カミーユがいなかったら、おれはニュータイプになんかなれなかったんだぜ。」

カミーユの言葉を否定する様に、そう言ったジュドーの表情に翳りが生まれる。
ニュータイプと言われ煽てられて、流されて、戦って。
気が付けば、深みに填り抜け出せない処にまで連れて来られて。

辛くなかったと言えば嘘になる。

救える筈だったプルを失い、プルツーも失い、ハマーン・カーンが逝く寸前に解放した身勝手な思惟によって、僅か14歳と言う年齢でありながら、無邪気でいられる子供らしい精神を奪われ一足飛びに、半ば強引に大人へ成長させられてしまったのだ。
それでも自分は不幸だったとは思わなかった。けれどカミーユは違う。

「おれは、あんたがネオ・ジオンサイドにいる事が信じられない。幾らシャアが後継人としてカミーユをずっと保護していてくれたからって、何もそこまでする必要なんかないんじゃないの?…って言ってもおれには説得力ねぇかな。何となく感じていながら、こんな事態になるまで現実から目を反らして世捨て人を気取って木星にいたんだから…。」

ジュドーは少しだけ俯き、ぽつりと呟く。
実際、ジュドーは木星空域から地球圏に拡がる、歪んだ人の意志を感じ取っていた。
そしてその中心にいる人物が何者なのか、そして何を起こそうとしているのか、僅かながらに感じ取っていたのだ。しかし、その現実から目を反らし、事が起きる寸前、今の今まで地球圏に戻って来なかった。

「…やっぱりジュドーは優しいな。自分が思っている事を、そのまま言葉にする事が出来るんだから。俺とは、全然違う。俺は、そんなにも思った事をストレートに言葉になんか出来ない。いや、仕方が判らないって言った方が正しいのかもしれない。」

そうカミーユは、俯いたままぽつりと呟く。




始めは自分の闘いだった。
そしてその闘いは次第に大きな意志によって悪意や欲望と共に拡大してゆき、その中でカミーユは肉体も精神も疵付き、純粋過ぎる悪意と欲望を抱いたシロッコの死をもって闘いに一段落が着いた。
今だから言えるのだが、あの時シロッコによって精神を一時的にしろ崩壊させられた事が、今の地球圏全体を見渡せるだけの視野を持つ切っ掛けを生んでくれたのかもしれないと、カミーユは考えていた。

ただ、その代償は計り知れなかったのだけれど。

「いいや、おれなんかよりもカミーユの方がずっと優しい。カミーユはそれに気が付いていないだけだ。だってそうだろう? 優しくないヤツが、自分以外の人 間の運命を愁いたりなんかするもんか。カミーユは、アムロさんとシャアの未来が覚えてしまったから…だから。ふたりが選択してしまった未来を換える為に、回避する手段として今の仕事をしてるんだろ? 頼むから…さ、そうだと言ってくれよカミーユ。」

ジュドーは、そっとカミーユの肩を掴み、祈る様な気持ちでそう問い掛ける。

木星と地球圏。

同じ太陽系内であっても、通信施設の関係で、映像さえ望まなければ半日から1日一寸の時差だけで会話が出来る距離だった。だが、この3年間ジュドーはカミーユとは片手で余る程度しか連絡を取っていなかった。それも毎回、リィナが一方的に連絡を寄越し、叱られながら連絡をする…言った体たらくで、とても積極的に、とは言い難いものだった。

理由はあった。

地球から木星までの距離の事を考えれば、確実にウラシマ効果は起きる。
実際、ウラシマ効果によって、ジュドーは地球圏から去った時から少しも変わっていないのだ。ティーンエイジャーである筈なのに、ジュドーのルックスは3年前から少しも変わっていない。僅かに身長が伸びた程度だ。けれど地球圏にいるリィナやカミーユ達は、着実に年相応に年齢を重ねており、ジュドーは自分だけ時間から置き去られてしまった様な錯覚に囚われてしまうのだ。
その感覚に耐えられなくなると、人は木星船団の乗組員から引退をする。
ジュドーは同じ船団の乗務員達に、そう教えられていたから、出来るだけ地球圏にいる人達とのコンタクトを避けていたという訳だ。
けれど、地球圏から発せられる人の歪んだ意志に、ジュドーは耐えきれなくなった。
世捨て人を気取り地球を捨てた筈なのに、見知った人々が歪んだ意志によって疵着き、苦しんでいるのに気が付いてしまったジュドーは、その魂削る悲鳴にも似た感覚に、ついには耐えきれなくなり…此処、月へ戻って来てしまったのだ。

「…ジュドー、もういい。君は本当に心根の優しい子だ。そんな子が、これからこの地球圏で起きる出来事に関わっちゃいけない。俺の事はいいから。俺は大丈夫だから、ジュドーは木星に還るんだ。木星で、ジュドーがしなくちゃならない事が必ずあるから。」 

優しく肩を掴んでくるジュドーに、カミーユも優しく答える。
カミーユは、判っていた。周囲が思っている程、ジュドーが決して強い性根を持っている訳では無いと言う事に。それはひとつの魂を分け合った者同士でなければわかり得ないものなのだ。そして近い未来、ジュドーの身辺で起こりうる事件。

選択肢は幾つかあるが、多分彼が選ぶだろう道。
それは、ジュドーの存在がなければ起き得ない、史実に記録される事のない事件。
けれどまだジュドー自身、それに気が付いては居ないのだ。


「俺は、サイコ・フレームが確実にνガンダムに搭載された事が確認出来次第、此処を辞める事になってる。そしてシャアの指示通り…スイートウォーターに移住するんだ。それがどういう事か、ジュドー…君なら判るだろう?」

此処へ戻って来る時に、ニュータイプとしての力を失った代わりに得たジュドーという存在だったが、もうそろそろ解放してあげよう。

もう充分ジュドーには優しくして貰った。
もう充分ジュドーには暖かな気持ちを貰った。

カミーユの心は、今暖かな気持ちで満たされている。地球圏と木星という、遠く離れた場所にいても、いつもカミーユはジュドーの心を傍に感じていたのだ。
暖かくて、優しいジュドーの心を独占してはいけない。
ジュドーにはもっと、しなくてはならない事があるのだから。
そしてカミーユ自身も、自分が選択した道を一歩踏み出す為にも。

「本当に、それでいいのか? 無理をしてるんじゃないのか? シャアはきっと地球に衛生のひとつでも墜すに違いないんだぞ。そう予感させるだけ、この地球圏は歪んだ意志と悪意で溢れてるんだ。こんな処にいつまでも居られる訳がない。こんな悪意に満ちた処にいたら、カミーユは…きっとまた、苦しむに違いないのにっ!」

ジュドーもまた感じていた。
カミーユの優しさに。 

以前の闘いの時、ニュータイプとして目覚めたばかりのカミーユの繊細な魂は剥き出しだった為に心が疵付き、止め処なく見えない血を流し続け、ゆっくりと歪みを生じ、シロッコの存在の消失と言う切っ掛けが、彼の魂を砕いたのだ。
ジュドーは、カミーユが再びそんな事態に陥って仕舞うかもしれない事を危惧していた。

「大丈夫だよ、ジュドー。俺はもうそんなに弱くないし…それに、宇宙の広がりを感じるだけの力も失ってしまってるからね。だから…だからこそ、サイコ・フレーム等という歪んだモノを生み出す事が出来たのかもしれない。」

カミーユの口から発せられた言葉は、次第に小さなものになってゆく。
Zに搭乗し、宇宙(そら)を駆っていた頃、自分の設計したその機体に何が仕込まれているのかちっとも知らなかった。
ニュータイプの素質のある搭乗者の意志を拡大し、それを放出させる事が出来るシステムが組み込まれたバイオ・センサーなる装置は、カミーユの意志とは関係なく、製造者の目論み通りまんまと起動した。
カミーユ自身、今更それに対して利用された等と思ってもいない。
だが、そのシステムに対し科学者としての探求心は芽生えたのだ。
自分の意志をあれだけ拡大する事の出来たバイオ・センサーを、更に改良し増幅、解放させる事が出来たら。
カミーユにとってサイコ・フレームを製造しようと思った切っ掛けなど、その程度だったのだ。
そしてシャアの名の下に集った科学者達と共に、サイコ・フレームの研究が始まった。

「…もう、何を言ってもだめなのか。カミーユ。」

そう言ったジュドーの言葉に、カミーユは小さく、こくりと頷いた。



「ありがとう、ジュドー。ずっと俺は君の存在を傍で感じ続けていたよ。君が俺の手に初めて触れた時から…初めて出逢った瞬間からずっと、ね。」


そう言ったカミーユの笑顔は、今まで見たどの笑顔よりも幸せそうで。
そのためジュドーは、これ以上の何を言っても無駄なのだと悟った。


スイートウォーター。そこは現在、ネオ・ジオンの拠点となるコロニーだ。
ジュドーがZZに乗り宇宙を駆ってハマーンとの闘いの果てに得た、言葉に為らない虚しさを胸に木星へ旅立った半年後、シャアがネオ・ジオン総帥を名乗り挙げ、占拠したコロニーだった。
そしてこれから、カミーユが向かう場所でもある。

「…。」

小さく笑みを浮かべ、自分の肩に添えられたジュドーの手をカミーユはそっと下ろし、自分の掌よりも少しばかり小さなジュドーの手を握りしめる。

「働く男の手に…なったな、ジュドー。俺とは全然違う。」 

まだ小さいけれどゴツゴツしているジュドーの手は、無骨だったが暖かい。

「カミーユ…。」

もう、何を言っても無駄だろう。
年齢を重ね、多少変わったとは言え、こんなにも優しく男臭さの欠片もない、一見女性に見まごうかの様な容姿のカミーユではあったが、その実、色々な意味で、もしかしたらジュドーよりも強いかもしれないのだ。
一度決心したら、その決意を二度と曲げはしないだろう事は、十二分に判っていた。

「お別れだ、ジュドー。君を呼ぶ声が、木星の方から聞こえる。君にはまだしなくちゃならない事があるんだ。だから…木星に帰るんだ。」
 


ジュドーには視えていた。アムロとシャアの未来が。
そしてそれを追うかの様に、カミーユもーーーー。
けれど、それを引き留めるだけの術をジュドーは知らない。


「ああ、判ったよ。カミーユの言う、木星でおれを呼んでるって言う“誰か”の為に、おれは行くよ……。」
 

その後ジュドーは地球圏へは戻っては来なかった。


そして運命の輪の回転が加速度を増した、宇宙世紀0093年2月27日が訪れる。
シャアが行ったTV演説を皮切りに・・・。
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