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そらいろのとき(カミナ×キタン(過去話)

「こんなはずじゃ、なかったんだけどなぁー…」

ぐったりとベッドにうつ伏せに横たわり、隣に座る藍に染められた刺青の入った大きな背中を恨めしげに眺め、ぽつりとキタンは呟いた。

「ああん? なんか言ったか?」

そんなキタンの呟きを聞いてか、その背中に藍の炎の刺青をした男がベッドに片手を突き、キタンの方へと振り返り覗き込んでくる。

「なんでも…ねえよ」

普段は人の話など聞く耳持たないといった風なのに、こういったときだけはちゃんと聞こえている相手に対して、キタンは少しだけむっとした表情をするが、そんな表情を見てその男はニヤリと笑い

「ま、気にすんな。なるようになっただけだ」

と、事も無げにそう言って覗き込んでいたキタンの顎を片手でひょいと軽く持ち上げ、軽く口接ける。

「…なッ!」

唐突な口接けにキタンは慌てて起き上がるが、昨夜の名残でまだ腰が痛むせいか、中途半端な起き上がり方をしてしまい、その男の額に頭突きする形になってしまい、その痛みで互いに突っ伏しつつ、二人は大笑いするしかなかった。

「そーいや、以前もこんなことあったよなあ」

キタンの頭突きを食らいズキズキする額を撫でつつ、笑いながら男は続けると、キタンは再び枕に顔を埋め突っ伏して

「言ってくれるなよ… 過去のことなんだからよ?」

と、涙目になった表情をその枕に隠した。








「とうさん…」

眼を真っ赤に腫らして、父親の去ってゆく背中を見つめ続けそれ以上言葉を続けられない自分を歯がゆく思っていた。
ついて行こうと思えばついて行けたはずなのに、一歩。躊躇したたった一歩が踏み出せず、結局父親の背中を見送ることになり、こうしてそれを後悔して今だここに立ち続けていた。
ついて行くか、ここに残るかを、自分の意思で選択させた父親の思いは、幼いながらも十二分に判っていた。自分の意思を尊重させてもらえたのだ。それはとても嬉しいことだったのに。

「おいていかれたんじゃない。ついていかなかったんだ…」

ずずっと鼻を啜り、泣き続けて真っ赤になった眼を手の甲で拭い、元いた村へ戻ろうと踵を返す。
多分、以前のように村の人たちは自分に接してはくれないだろう。
愚かな父親に置いていかれた、哀れな子供として色眼鏡で、奇異な眼で見られるだろう。
幼いながらカミナは、そこまで考えていた。

「…ぐすっ」

ごしごしと眼を擦り、キッと沈んで行く真っ赤な太陽を睨みつける。
だからこそ、強くならなくてはならない。
誰に罵られ様と、誰に貶められようと毅然とした態度で、確固たる強い意志で自分を貫いていかなければ、まだまだ本当は誰から守って貰いたい弱い自分は頽れてしまうに違いない。
カミナはそう思い、この赤い大地、地上に今までの弱い自分を捨てて行く覚悟をしていた。

「おい、こんなところでどうした? こんな時間にあぶないぞ」

ふと、突然背後から不思議な毛むくじゃらな生き物に乗って現れた、短く刈った金色の髪の少年が自分に向けと問いかけてきた。

「…ッ」

突然背後から声をかけられ、吃驚して飛び上がるように振り返ったカミナは、毛むくじゃらな生き物の上から自分に声をかけてきた少年を凝視する。
見たこともない黒い衣服に身を包み、傷だらけの腕を惜しげもなく晒け出したまま、自分へ向けてその手を差し伸べて来たのだ。

「ここは、あぶないからどこかちがうところへ行かないと。これからどんどん気温下がるし、夜活動するケモノもあらわれて、おれたちみたいにちっこいのはいいエモノになっちまうぞ」

黒衣の少年はそう言ってカミナの手を握り、ぐいっと引っ張って自分の乗るその毛むくじゃらの生き物の上へ乗せる。

「こいつは走るのがはやいんだ。ちょっとやそっとくらいじゃそこらへんのケモノは着いてこれねえ」

そう言って少年は手綱を握り、その生き物を走らせようとする。

「あ…ッ ちょっと待って。もう…帰るから村に…ッ」

カミナは強引に生き物の上に抱えられるようにして乗せられ、更にはここから去ろうとする黒衣の少年の行動力に慌て、先ほどまで泣いていた自分を忘れていた。それほどまでに、その少年はさり気ない強引さでカミナを引っ張っていたのだ。

「村が近くにあるのか。じゃ、そこまでおくるよ。歩いて帰るとあぶないからな」

黒衣の少年はそう言ってカミナにニコッと笑いかける。
自分と同い年くらいなのに、この少年はもう一人でこの地上で立って歩いているのだ。
カミナはそう思うと恥ずかしくなり、少しだけ俯いた。




そんなに遠くはない村への入り口へ向かう途中、金色の髪の少年は、初めて乗るだろう毛むくじゃらの生き物のスピードを手綱で調整して
、ゆっくりと進めつつ大人しくしているカミナに向かって色々問いかけてきた。
真っ赤な太陽が沈む、真っ赤な大地をキョロキョロと忙しなく不思議そうな表情で眺めるカミナの仕草を見つめ、金色の髪の少年の頬は僅かに朱に染まる。
僅かに吊り上りながらも全体的に垂れ気味の眉根と、それに比例している大きな瞳の垂れた眼は、見た目は穏やかそうに見えつつも、どこか芯がしっかりしていそうなムードを醸し出しており、ちょうどその少年の淡い恋心を擽るルックスであったのだ。

「こんな生き物にのるの、はじめてだろう? 地上にしかいない生き物だから地下に住んでたら、知らないもんな」

毛むくじゃらの生き物のことを示しながら、金色の髪の少年がそう言うと、

「うん。はじめてみた。すごいおおきいね。ブタモグラとおなじくらいだ」

カミナは、少年の言葉に頷きつつ、毛むくじゃらの生き物に掴まりながらその長い毛を撫でる。

「きみは、ひとりでここにいるの? さびしくない?」

毛むくじゃらの生き物を撫でながら、少年がひとりで自分の前に現れたことに対して疑問を抱いたため、ふとそう問いかけた。

「ひとりじゃないさ。妹たちと、おれたちを養ってくれてるオアシスのじじいたちがいるからな…さびしくなんか、ないさ」

カミナに問われるまま少年は、そう答えふと遠い目をして鼻の下を人差し指で軽く擦った。

「…おれたちの村は獣人に焼きうちされたんだ。もう、おれたちの村はどこにもない。生きのこった大人も子供も、この広い大地にちりぢりになって…いつか村をおそった獣人たちをやっつけるために、戦ってるんだ…」

金色の髪の少年の声に、何処か湿り気を感じカミナは俯く。
聞いてはいけないことを聞いてしまったのかもしれないと、感じたのだ。

「おまえが気にすることじゃないさ。おきちまったことは、くつがえせないからな。けど、やられっぱなしはおれたちの性にあわねえ。だから戦ってるんだ」

俯いたカミナに気づいた少年は思わずそう言うと、ヘラリと笑ってカミナの頭をぽんぽんと軽く叩く。
少年は、強かった。同じくらいの年恰好なのに、こんなにも自分とは違う。
カミナは恥ずかしくなってしまった。

「…そのうでのキズも…その時にできたの? ひどいキズ…痛いよね?」

陽に焼けた傷だらけの腕を惜しげもなくさらけ出し、その手をカミナに差し出してきた時の事を思い出し、ふと聞いていいことなのかどうか不安ではあったが、問いかけてみた。
自分にも必要な強さを、知りたかったからかもしれない。

「あ、これか? うん。今はもう痛くなんかねーよ。死んだかあちゃんが受けたキズとくらべたら、ちっちぇえもんさ…。 かあちゃんは… かあちゃんはな… おれをかばってずーっと抱きしめてくれてたんだけど、手だけはかばいきれなくて…さ、獣人たちが…こん棒や斧でかあちゃんを…」

そこまで少年が言うと、カミナは振り返りさっきまで泣いていた真っ赤な眼で

「ごめんなさいっ! もういいよっ! そんなつらいこと思いださせちゃって…ごめんな…さ…ッ」

と、少年の身体を抱きしめた。

「どわわわわわ…ッ! き…っ 気にするなってばッ! かあちゃんは、子供のおれのことを大事にしてくれてたからおれをかばってくれたんだし… だからおれはかあちゃんととーちゃんの分までがんばって生きないといけないんだから。おれは、そんなかあちゃんととーちゃんみたいに、自分以外のだれかをまもってきたいって思ってんだ」

抱きついてきたカミナに一瞬驚いてしまい、思わず顔を真っ赤に染めながらも、親によって大切に守られた分、今度は自分が誰かを守れる存在になりたいのだと心に誓っていることを告げた。
多分、少年もその心のうちを初めて他人に語ったのだろう。そう言葉にした途端、恥ずかしそうにカミナから顔を背けた。

「えらいな、きみ…は …とはおおちがいだ」

カミナは顔を背けた少年の眦に、涙が薄っすらと滲んでいるのに気づかない振りをして、ぽつりと呟く。

「そんなこと言うな。おまえもこれから強くなればいいじゃんか。まだまだおれたちにはでっかいかのうせいがあるんだからなッ!」

そんなカミナの小さな呟きを少年は聞き漏らさず、毛むくじゃらの生き物を歩かせていた手綱を止め、ふいに抱きついて来ているカミナの前髪をサラリと掻きあげる。
すると俯いていたカミナは、きょとりとした表情で少年を見上げてきた。
カミナの眼は、少年が今まで見たこともないほど大きくて真っ赤な眼で、その眼が自分を見つめてくるために少年の胸の鼓動が激しく高鳴り。

「ちゅっ」

と、その額にキスをしたのだった。







「真逆、あン時のかわいい子が、きさまだなんて、誰が思うよッ」

枕に顔を突っ伏したまま、不貞腐れた表情でキタンは続ける。

「か弱そうで、守ってあげたくなるような女の子だと思ってた子が、こんなでけぇ態度の人の顔も名前もちっとも覚えねぇドアホの男に育つと、誰が信じるよ。まったく詐欺だぜ、詐欺」

ぶつぶつとキタンは呟きつつ、ぼさぼさの太陽に褪せた短く刈りあげた金髪をバリボリと掻く。

「なーに言ってんだか。そっちが勝手に勘違いして妄想しちまってたんだろうが。俺のせいにすンなっての」

一方カミナも昔のようなふわふわの長く青い髪の面影が僅かに残る前髪を軽く掻き上げて、そうごちると、大欠伸をしてごろりとキタンの横へ横たわる。
あの時は、マントを纏っていたためにキタンは気づかなかったが、既に物心がついた頃にはカミナの上半身には藍に染め上げられた刺青が彫られていたのだという。
それが何を意味しているかなど今のカミナには判らないし、それを言うようなものでもなかった。

「つーか、そんなお前にホレた俺がバカなんだけどよー…」

突っ伏していた枕を両手で抱きしめ、横目でチラリとカミナを見やりつつ、まだ何か言葉を続けたいが続けられないでいるキタンは大きく溜息を吐いた。
それは、青空を染める空色のように、カミナの存在はキタンの心の中の大半を占めているのだと、本人はきっと少しも感じていないのだろうという、半ば諦めにも似た溜息だった。

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