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葬送(シモニア)

慣れない不器用な手付きで、一生懸命シモンの両手に巻いた包帯はよれよれになって解けかけていたが、そんなことはお構いなしに、シモンはニアの手を取って嬉しそうに微笑み、疲れた身体を癒すためぐっすりと眠っていた。
大きなベッドに小さな身体のシモンとニアは手をぎゅっと握り締めた格好で、すぅすぅと小さな寝息を立てている。

「お疲れさま、シモン。…ごめんね、優しい言葉をかけてあげられなくて。口だけの…優しい言葉なら…どれだけでもかけてあげられるけど…本当に必要な言葉は…私の口からじゃダメなんだ…」

ヨーコは二人の寝ている姿をそっと覗き見て、ぽつりと呟く。
本当は、ぼろぼろに心も身体も疵付いて、今にも頽れてしまいそうなシモンを抱きしめて支えてあげたかった。けれど、それではダメなのだとヨーコは判っていた。
それでは、互いの瑕を舐めあう行為でしかないのだから。
だから、敢えて「自分で立ち上がって立ち直ってもらわなければダメなの」と、ヨーコはシモンを突き放した。

「でも、もう大丈夫そう…ね。よかった…」

薄っすらと浮かぶ涙をそっと指で拭い、ヨーコはその場から立ち去る。
今度は自分の番なのだと。













一方シモンは夢を見ていた。

真っ青な雲ひとつない空の下。
地平線が見えないくらい広がる真っ赤な砂漠の真ん中に、ぽつんとカミナが背を向けて立っているのだ。

「兄貴ッ」

手を伸ばし駆け寄るが、カミナはシモンの声のする方を振り返ることはない。
シモンが背後にいることに気づいているだろうにも関わらず。

「兄貴ッ おれ…ッ」

シモンは、3歩程度離れた位置で歩みを止めると一瞬だけ俯き、そして顔を上げる。
相変わらず、カミナの背は広く大きい。
けれど、それは決して威圧的な壁のようなものではなく、暖かくそして優しく、護ってくれる人のそれと同じで、シモンはカミナの背が大好きだった。

『…なあ、シモン』

シモンがカミナを呼ぶが、カミナはシモンの呼びかけが聞こえていないように、シモンの名を呼ぶ。

『強くなったな。もう俺は“それでこそ、俺が見込んだシモンだ”って言わなくても良くなったぜ』

そしてそう言葉を続けると、人差し指でサングラスを鼻梁の上で軽く持ち上げ、真っ青な空を見上げる。

『…お前は、俺を買いかぶってるって言い続けてたけどな、俺の方こそ…お前が俺を買いかぶりすぎていたと思うぜ』

サングラスの先端に太陽の陽射しが反射して、輝きが一閃する。
その輝きに、シモンは思わず目を眇め、眩しそうにカミナを眺めた。


掛替えのない存在。
カミナがいたから、シモンはここまでやって来れたのだ。

「兄貴、おれ… 兄貴がいなかったら…」

眩しそうにカミナを見上げながらシモンが言葉を続けようとした途端、カミナは振り返って来た。
が、逆光のせいなのか、顔も表情もシモンにははっきりとは見えなかった。

『それ以上言うな。不用意な言葉は、自分を縛っちまうからな。滅多な事は言うもんじゃねえ』

と、優しく、それでいて暖かな、けれど抑揚のない口調でカミナはシモンを諭すように話しかける。
そしてトンっと人差し指でシモンの胸、心臓の上の辺りを軽く突付き、

『言葉は、魂が宿るって言うからな。もうシモンはそんなもので自分を縛り付けるような、ちっせえ漢じゃねえだろ? 俺を越えて…まっすぐ天へ、高みを目指して進んで行ける、すげえ度量の漢なんだから』

そう言うと再び踵を返し、高々と腕を上げ天を指差したのち、そのまま地平線の彼方へとその指先を移動させ

『なあシモン。お前はいつまでもこんな場所に留まってたらいけねぇんだ。前へ進んで行ける足があるんだからな。せっかくある足を使わねえと損だろ。俺は、此処からお前のこれから歩いて行く路を見守っていてやる』

「でも、道を間違えちゃうかもしれないよ、おれ。兄貴がいないと」

再びシモンはカミナの背を見詰め、カミナの言葉に不安を覚え思わずカミナのマントの裾を掴んだ。
怖い訳ではない。
今の言葉が、カミナとの永遠の決別を示唆しているようで、不安になったのだ。

『間違えりゃ、いったん立ち止まって考えなおしゃいい。シモンには、ヨーコやリーロン、ロシウがいるだろうが。そーいうときゃ、一人で背負わずにみんなで考えて動けばいいんだ』

シモンの心の不安に気づいてか気づかずか、カミナはそう言って、前を向いたまま振り返ることなくシモンの頭を軽く乱暴に撫でる。



『さあ、行けシモン。お前にゃ待ってるヤツがいるだろうが。そいつは俺じゃねえ。これからは、そいつの為に……』


ふと、掴んでいたカミナのマントが薄っすらと薄れ掛けていることに気づき、シモンは慌てて見上げると、そこにいたはずのカミナの姿がマント同様薄れ始めていたのだ。

『…もう、来るんじゃねえぞ。此処には』

「うん… ありがとう、兄貴」

カミナの言葉に大きく頷き、シモンは青く晴れ渡った雲ひとつない大空を仰ぎ、そして地平線の先にあるまだ見えない象牙の塔を睨み据える。

目指す場所は、螺旋城。
そして、天だ。

そのシモンの決意に満足そうな表情で、カミナは笑う。
大きく、高らかに。

『じゃあ、行け。シモン。お前にしか出来ねえことを、して来い』


「うん。おれ頑張るよ。ありがとう兄貴。そして、さようなら」














ふと自分の手の中に、柔らかな感触があることに気づき、吃驚して目を覚ましたシモンの目の前には、ふわふわと柔らかな綿毛のようなニアが、こちらをじっと見詰めていた。
どうやら、シモンより先に起きていたようだった。

「おはようございます、シモン」

ふわと、花が綻ぶ様に微笑み、ニアはシモンにそっと言葉をかける。

「寝ていて、苦しそうな表情をしていました。でも、途中から…」

そして空いている方の手がそっとシモンの顔へと差し伸し、眦に浮かんだ涙を指ですくう。

「泣いてましたけど… とても嬉しそうに笑っていらっしゃいました。シモン…良かったら教えていただけますか? あなたの…兄貴さんについて。私はとても知りたいです」

涙をそっとすくって来るニアの手を、シモンはそっと取り、自らの頬へと沿えて小さく頷く。
ニアにも救われていた。
兄貴だけじゃなく、シモンはニアにも救われていたのだと、改めて確認できた。















「うん。兄貴…ううん、カミナのことなら本当にたくさん話があるから…ニアにいっぱい話すよ。カミナのことを。俺とカミナの話を」
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