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キャプテン・シモンとチビカミナシリーズ -二律背反-

ハッハッハッハ…ッと、息を切らせて走り続け、少年は恐怖に怯え何処か隠れる場所を求め、涙を浮かべて震える瞳が彷徨う。

「殺される…ッ 逃げなきゃ…ッ」

じわじわと迫り来る気配が自分を確実に追い詰めて来ている。
空を真っ赤に染めるおおきな光が沈む前に地下へ戻ろうと思い、元来た道をとぼとぼと1人歩いて戻っていた所で、少年は見たこともない大きな黒い生き物に出会ってしまい、その大きな黒い生き物が目をギラつかせ飛び掛ってきたのだ。
悲鳴を上げて寸での所で逃れたが、僅かに掠ったのか着ていたポンチョはその生き物の爪で裂かれてしまい、腕にその生き物の爪が掠った痕が蚯蚓腫れとなって残っている。

「死にたくない…ッ 死にたくないッ」

両腕を振り回し必死の形相で走っていたが、気づけば地下へ戻るはずの方向とは反対へと誘導されていた。
まだ幼い子供の足では、そんなに早く走る事は出来ず、黒い生き物の気配を感じては向きを変えるといった状態を繰り返しているうちに、少年の疲労はピークに達し始めていた。
一方、大きな黒い生き物は、そんな少年を玩ぶかの様に時々姿を現したり、気配を表へ出したりと、じわじわと精神的にも肉体的にも追い詰めていく方法を取っていた。

「ヤだッ ヤだ…ッ」

ぜぃぜぃと次第に息が荒くなり、思考は真っ白になっており、ただ“死にたくない”という意識だけに支配されていた。
所々に僅かに枯れた草が立ち枯れたあるだけの、真っ赤な砂礫の大地が、今の少年には「死の大地」にしか感じなかった。

ガサササ…ッ

その立ち枯れた草の狭間から、黒い大きな生き物が顔を出し、少年の足が止まる。
ガクガクと足は震え凍りついた驚愕の表情が、その生き物に向けられると、その瞬間を待ちわびていたかの様に、少年を追っていた他の黒い生き物が飛び掛ったのだった。

「………ーーーーー…ッ!」

少年の身体の倍以上はある、黒い大きな生き物が複数で獲物を屠る様に飛び掛り、地面に押し倒す。

「…ッ! っっ!」

少年は悲鳴すら出せず喉を引き攣らせ、痙攣け起こしたような声を漏らし、今まさに自分へ振り下ろされようとしている黒い生き物の鈍く輝く鋭い爪に視線が釘付けになっていた。
と、その時だった。
突然、空と大地を染めていた赤かった視界が黒く大きなもので遮られたかと思うと、



「目を閉じてっ! 兄貴ッ!」




何処からか聞いたこともない声の叫びが聞こえ、少年は思わず理由も判らないままその声に従って目を瞑ったのだ。

その瞬間、耳を劈幾つもの轟音とともに圧し掛かっていた黒い生き物の気配が掻き消えたかと思うと、同時に身体に生暖かいものが掛かり、鉄錆臭い匂いが辺りに漂い出し、慌てて目を開けて起き上がる。

「見るな…ッ! 兄貴ッ!」

起き上がった少年の気配に気づき、声の主は再び叫ぶが、時既に遅く。

「……ァ」

視界に入ったのは、自分に圧し掛かっていた黒い生き物たちが何かの衝撃で吹き鯖されたのか、足元へと飛ばされ、頭部を撃ち抜かれて脳漿と血を撒き散らし、絶命していたのだ。
少年はそれを呆然とした表情で見詰め、そして自分に降りかかった生暖かいそれがその生き物の血だと言う事に気づき、両手で顔を覆い、悲鳴を上げそうになった。
その様子に気づいたのか、声の主は何か叫んだかと思うと、持っていた大きな竿の様な、それていて剣のようなものをその場に投げ捨てると、少年の傍へと駆け寄り背後から抱きしめ、そのまま抱え込み少年の視界から死体を遠ざけた。

「ごめん…ッ! 急いでたから…っ! こんな怖い思いさせるつもりはなかったんだっ!」

少年の頭を掻き抱くその大きな手は僅かに震えており、その震えに気づいた少年の方が小首を傾げ反対にその自分を抱きしめてくる大きな男の人の背に手を回しおずおずとその身体をぎゅっと抱きしめた。




「なに、またやっちゃったの? シモンったら…もう… いいかげん覚えなさいよ。その銃はレールガンじゃないんだから」

黒い獣の血を浴び汚れてしまった少年に『身の回りの世話をしてあげる』と言ってきた女性がダイグレンの艦内にあるシャワー室へ連れて行き、しっかりと血を流し終えてから艦長室へと連れて来ると、その女性はそこでごしごしと少年の髪の水気をタオルで拭き取りながら、シートに座りボーッと壁面のモニターを眺めているシモンへと文句を言う。
子供サイズの服がない為、大人のぶかぶかのシャツを羽織らされて、袖をロールアップした状態でその女性にされるまま髪を拭かれている少年は、時折困った顔をしつつ、モニターを見詰めたままのシモンと呼ばれた人が何を喋って来るか気になりじっと見詰める。

「…ああ。判ってるって。でも…つい…兄貴が殺されるかと思ったら…」

モニターを見詰めている横顔が、僅かに曇っているのに少年は気づき、髪の毛の雫をふき取ってくれている女性の顔をチラと見遣ると、何処か悲しそうな笑顔で微笑を返し

「君は…知らなくてもいいの…ううん、知らない方が…いいんだけど ね」

そう、少年に向かって言葉をかける。
その表情はとても複雑な色を湛えており、その表情を見てしまえば少年は二の句を告げず、シモンと女性を交互に見詰め、無言のまま俯いた。

「ごめんね。すごく気持ちが悪いわよね…」

程度にタオルドライを済ませ、少年の頭からタオルをそっと下ろすとボサボサになった前髪を軽く掻き上げると、女性はそう言ってポムっと軽くその頭を撫でる。
そんな女性の表情に似たものを少年は、何度も地下の村で見たことがあった。
それは、半分絶望にも似た物で。

「…ううん、いいよ。気にしてない。おとなのじじょうってものがあるのくらいはわかってるから。おねえさんを、こまらせる気はないよ」

と、少年の発した言葉は余りにも物分りのいい子供のような答えで、その言葉からはとても自分達の知っている人物からはとてもかけ離れていたものだった為にシモンと女性は、その少年の言葉にハッと顔を上げたのだった。


ソファにちょこんと座り、手持ち無沙汰を誤魔化す様に足をブラブラさせて、自分をチラチラ見てくるここの一番えらい人だと思われるシモンと呼ばれる男の人を胡乱気な表情でじーっと見る。
見られるのは嫌ではないけれど、どうせ見るならもっと堂々と見てくれればいいのにと、少年は思っていた。どうせ、もともと見られ慣れてはいたのだから。

「…こんな時間だし、おなか減ってるかな。小さい子向けの食べ物は今ちょっと切らしてて…でもこれくらいなら食べられるよね」

暫く姿を消していた女性がそう言って、手にトレイを持って再び部屋へと戻ってくる。
そのトレイの上には、見たこともない鮮やかといえば聞こえがいいが、ちょっと毒々しい色合いの模様の植物の実と、肉と思われる塊が乗っていた。

「…ありがとうございます。でも、それ…」

鮮やかな模様の植物の実を凝視して、少年は指差す。
少し、食欲が減退しそうな色合いな為、少年は少し怯んでいる様で、その様子に女性はクスッと微笑み、

「大丈夫よ、ちゃんと食べられるから。甘くておいしいわよ」

そう言って、少年の座っているソファの前のテーブルにトレイを置くと、その鮮やかな植物の実を手に取り、軽く爪で表皮に線を入れたかと思うと、パックリとその実を半分割って片方を少年へと手渡す。

「食べてごらん。見た目はちょっと…だけどね」

「…ありがとうございます」

手渡されれば食べないといけないと思い、少年はその実の半分を恐る恐る口へと持ってゆく。
瑞々しく水分の多いその実は、半分に割られた事で果汁が溢れ、少年は手が汚れてしまうので慌ててぱくりと口の中へと放り込む。

「…ッ!」

生まれて初めて食べるその食感と甘い果汁に、少年は驚いた表情で女性とシモンを交互に見渡す。そんな少年の表情に、女性はにこにこと微笑み、シモンは何処か眩しそうなそして懐かしそうな複雑な表情を向けてきていた。

「ね。おいしいでしょ? 遠慮せず食べてよね。まだまだあるから」

その視線に気づいたのか、女性の表情も一瞬だけ曇ったが、それ以上に少年がおいしそうに植物の実を頬張っている姿の方が嬉しかったのか、テーブルの上のトレイを指差して笑顔でそう言うと

「じゃ、私はまだ仕事が残ってるからあとはシモンよろしく」

少年に軽くウインクをして踵を返し、部屋から出て行こうとした。

「…ぁ おねえさん…ッ えと… あの… ありがとうございます。えと…おれ…おねえさんの名前…きいてなくて…おれいが…」

部屋から出て行こうとする女性に向けて、少年はパッと顔を上げたかと思うとそう声をかける。

“…こんな可愛くて素直な子が…どうしてあんな風に育っちゃったんだか…”

女性は、少年のその言葉を聞くと心の中で小さくそして懐かしさも込められた溜息とともにごちりつつも、

「あ、名乗ってなかったっけ。ごめんね。私の名前はヨーコ」

振り返るとそう名前を告げた。すると少年はぺこりと軽く頭を下げて

「生まれてはじめてこんなにあまい食べ物たべたよ、ヨーコさんありがとうございます」

緊張も解け始めているのか、そう女性…ヨーコに向かって言うと再び手にした植物の実をむぐむぐと食べ始め、そんな少年の様子に、自然とヨーコの胸中に何かが込み上げて来て、思わず目頭に熱いものが滲んできて、鼻を鳴らしてしまい、それを誤魔化す様にふいっと身を翻し部屋から出て行く。
が、何思いついたようにドアから顔をひょこり出して正面のデスクにいるシモンを指差し

「おかわりが欲しかったら、シモンに言って持ってこさせるといいわ。それくらいさせてもいいから、そいつに」

そう言って、去っていったのだった。



「……」

ヨーコが去り再び二人きりの部屋になると、その場に沈黙が訪れ、どうしていいのかわからなくなった少年は、今度は肉と思われる塊を手に取りむぐむぐと無言のまま黙々と食べ始めた。
村のブタモグラの肉を塩漬けして焼いたものよりずっとおいしい味つけで、少年は目を白黒させていた。
そんな姿をチラチラと見て、シモンは過去に想いを馳せていた。
言葉や口調、仕草のどれをとっても、自分の知っている兄貴ではないのだが、時折見せる表情が自分の記憶の中の兄貴と被り、何度もドキリと心拍数が上がっていた。

「…シモンさん…は、はじめて会ったのにおれのこと…“あにき”って呼んだけど…シモンさんのおにいさんとおれ、似てる…の?」

肉を食べながら色々考えていたのか、最後の一口を食べ終えると少年は意を決したかの様に、ゴクリと大きく喉が鳴るほどつばを飲み込んだのち、そうシモンへと問いかけたのだった。
その表情は、幼い表情ながらも、シモンが見慣れたカミナの顔だった。

“ああ…兄貴。やっぱり兄貴だ…”

その表情を見て、シモンは改めて実感していた。
幾ら小さくても、兄貴は兄貴なのだと。






初めて次元大瀑布を超え、時空と次元を超えて辿り着いた先にあったものは、あの初めての激しい戦いの最中、カミナの生命の灯火が消える瞬間だった。
天空より、グレンラガンがビャコウとエンキドゥに攻撃を受けている瞬間がダイグレンのモニターに映し出された瞬間、シモンはあのときの光景が甦ったのか一瞬恐慌状態に陥り、それをニアが必死になって受け止めた。ニアがいなければ、シモンはダイグレンから飛び出していたに違いない。
胸を突く嗚咽にクルー全員が当時を思い出し、重苦しい空気に包まれてしまった。

そして次に超えた時空も、またその次の時空でも…何度もカミナは、場所と相手は違えど志し半ばで、若い生命は絶たれてしまい、その度にシモンは何度もカミナを失う場面と向き合わなければならなかったのだ。
それはシモンにとって、いや、ダイグレンの初代クルーにとっては地獄の苦しみにも近かった。

同じ次元に同一人物がいるということは、そこに時空に歪みが生じ、その歪みで傷ついた次元はまた新たな平行世界を次々と生んで行くのだ。そして、どの平行世界も一度練り上げられた運命から逃れることが出来ず、カミナという名前の男は、若くして死ぬ運命にあった。


「ああ、オレの大切な兄貴にそっくりさ。カミナって言うんだ…」

シモンは、少年を通して何処か遠くを見詰めているような表情だったが、少年の問いにふと少年へと視線を戻し、デスクの上で腕を組んで肘を突いて手のひらに顎を乗せて、肉を食べ終え甘い植物の実に手を伸ばそうとしている少年に向かって、薄く微笑んでそう答えたのだった。

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