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キャプテン・シモンとチビカミナシリーズ -永遠の刹那-

小さな渓谷に捨てられたトランクの蓋が投げられた衝撃で開き、同時に赤ん坊の泣き声がその渓谷に響く。

「…赤ん坊の泣き声がするな…何処からだ?」

村渡りに疲れ、そろそろ何処かの村に定住させて貰おうと考えていた男が1人、ちょうどその渓谷に差し掛かった所で赤ん坊の泣き声を耳にし、その声を頼りに進んでいたところ、幾つもの廃棄された大型のトランクが無残にも晒された場所に辿り着いたのだった。

「何処だ… 赤ん坊は…」

声がする方へと進み歩いて行くと、そこには鍵が壊れ蓋の開いたトランクがあり、その中で元気よく泣いている赤ん坊がいたのだ。

「可愛そうに…」

怖々と壊れ物を取り上げるように男はそのトランクの中の赤ん坊を抱き上げる。
まだこんなにも小さい赤ん坊だというのにも関わらず、上半身を染める藍のトライバルに表情を曇らせ、男は自分が纏っていたマントを裂いてその赤ん坊を包み、ザックから取り出した柔らかめな布に腰に下げた水筒の水を浸し、赤ん坊の口元を濡らす。
本当ならミルクがいいのだが、当然持っているはずもなく、更に如何せん自分は男であった為、そうするしかなかった。

「…ふぇっ」

抱き上げられ人の温もりに安心したのか、甲高い悲鳴に近かった赤ん坊の泣き声に変化が現れ、男は僅かに安心し周囲を見渡して他に蓋が開いているトランクがないか確認をするが、開いていたのはこの赤ん坊の入っていたトランクのみだったため、目を閉じ口の中で何かを静かに唱え、その赤ん坊を連れてその渓谷から去って行くのだっだ。




「…シモンさん。おれのなまえも“カミナ”だよ」

シモンの告白に、少年は呆然とした表情で手に取ろうとした植物の実を転がり落とす。
ころころと落とした植物の実が転がり、シモンの座っているデスクの側まで来ると、シモンはそっと立ち上がりその転がった実を拾って少年の座るソファのところへとやってくる。

「うん。知ってるよ、カミナ。会いたかった」

そうシモンは床に膝を突き、少年を見上げるような体勢に座ると、手に持っていた植物の実を少年へと私、そしてその手をそのまま遠慮気味に少年の頬へと移動させそっと触れる。

「カミナは知らないけど、オレはカミナのことを知ってるんだよ…ずっと…前から…」

僅かに眉間に皺を寄せ、今にも泣き出しそうな表情になったシモンの姿に少年は一瞬困惑した表情を見せたが、頬に触れて来るシモンの掌の震えに何かを感じ取り、小さなもみじのような手をそっとそのシモンの手の甲へ添え、そして僅かに小首を傾げてシモンを見詰める。

「おれのことをしってるんだ…シモンさんは。なんか…うれしいな。父さん以外で…おれのこと知ってるひとがいるなんて…」

白い手袋越しからでもシモンの手の温もりを感じ、少年はそう呟く様に言うと、見詰めていた視線をそっとはずし目を閉じる。こんなにも小さい子供が、既に孤独を感じていたのだ。
シモンはそんな少年をじっと見詰め、開いているもう片方の手で澄んだ空色をした柔らかな髪を指に絡ませる様にしつつ頭を撫で、自分の知っているカミナを思い出していた。
自分が物心つく頃はまだ、カミナはいつも独りで村の隅の廃材置き場に佇んでいた。
他の子たちはみな固まって遊んでいたのに、カミナだけはその輪に入ろうとはしなかったのだ。
その理由は判らなかったが、ただ同じくらいの年齢になった頃、カミナが自分達とは違う何かを放っていることに気づいたのだ。それが、カミナを孤独へと走らせていたに違いないと、シモンは考えていた。

「全て知っているわけじゃないけどね。でも、多分この世の中でカミナのことを一番知っているのはオレだよ…そう、自負してる」

そうシモンが少年に向かって言うと、緊張が解けたかの様な柔らかな笑みを少年は浮かべ、シモンへと向けた。




「この子が、私達の知ってるカミナに育つのかな」

黒い大きな生き物に追われ疲れていたのか、少年は暫くすると座ったままうつらうつらと舟を漕ぎ出し、それに気づいたシモンは少年の横へとそっと座って、自分の膝を枕にして寝るといいと進める。
しかし始めは遠慮していた少年だったが、流石に睡魔には勝てなかったのか、ふらふらと揺れ動く睡魔に負けてしまい、ぱたりと崩れるようにシモンの膝へと突っ伏すように電池が切れる様に寝てしまった。
そんなところへ、ヨーコがバーボンのボトルとグラス、そして少年用に甘いジュースの入ったグラスを持って戻ってきた。

「…どうかな。こうやってオレ達が自分達のいた本来の次元以外にきてしまった以上、新しい次元は生まれ続けていくんだから…多分、この兄貴もオレ達の知ってる兄貴にはならないと思うよ…」

すぅすぅと小さな寝息を立てている少年の髪を優しく指で梳りながら、シモンは薄っすらと微笑みを浮かべてヨーコへそう言う。

「…そっか。そうだよね…。時空を彷徨っていて判ったことは…自分達の本来いた次元に戻らない限り、その自分達の接点から次々と新しい世界が生まれてくって事だもんね…これもリーロンが調べてて判ったことだけど…」


そうヨーコは言うとグラスを手に取り、そのグラスをシモンへと渡す。
世の理の法則に逆らって次元大瀑布を超えた代償が、次元を彷徨う流離の旅人の集団と化したことだった。
それは、全ての時間から切り離された時の止まった存在でになってしまったということだった。
そして行く先々でシモン達は、次元の違う世界の過去の自分達や、未来の自分達の姿を見る事になり、改めてどの次元でも“カミナ”と言う存在は、自分達の知っているカミナと同じく、年若くして死んでゆくのだった。

「…でも助けられてよかった。今までは誰一人として助けられなかったから」

シモンはぽつりと呟くと、渡されたバーボンを一口、口唇を濡らす程度に口を付けた。
自己満足でも良かった。
これからこの少年の運命がどうなって行くかは計り知れないが、それでも僅かでも生き延びられるのなら、少しでも手助けがしたかった。




喩え、どの次元のカミナの運命の行き着く先が同じだったとしても。





「…そう ね。僅かでも生きていられる時間が延びるなら…」

今まで、もう少し大きくなってからのカミナや、自分達の知っている世代のカミナ、さらには死地に旅立つ寸前のカミナとばかり出会っており、ここにきて初めて幼少時代のカミナにで増えたのだ。
勿論、他次元の出来事に干渉をすることは、新たな次元の誕生を意味する。
しかし、今回ばかりはどうしようもなかった。
飛び出したシモンを誰も止められなかったからだ。
そして、止められる筈もなかった。

カランと、バーボンの入ったグラスの氷が解けて、音が鳴る。
そんなささやかな音に反応してか、一瞬少年の身体がビクンと痙攣を起こした様に振るえ、慌ててシモンは少年を覗き込む。

「お…起きちゃった…かな?」

じーっと覗き込んだ後、顔をあげてお伺いを立てるような情けない表情でヨーコの方を見詰めてくる姿を見て、

「大丈夫よ。深く眠ってるだけだから。心配しなくてもいいわ」

戦場を駈る時のシモンとは正反対の、以前の子供の頃の様に臆病な少年に戻ってしまっている姿を見て、ヨーコはくすっと笑った。
こうして、カミナと一緒にいられる時間もあと僅かだった。
同じ次元に、長時間存在し続けると、さらに時空の歪みを生み出してしまうため、長時間同じ場所に滞在することが出来ないのだ。
残念だが、この幼いカミナが大きくなり自分達と出逢うときまで見守りつづけることは出来ない。
しかし、この刹那の邂逅が彼等の心を魂を救っていた。




「で、どうする? あまり長い間…カミナが私達と一緒にいるのはいいことじゃないわ」

そう言ったヨーコの顔は、その言葉とは裏腹に苦々しく歪んだもので、それを本心から言っているわけではないことが十分に見て取れた。

「判ってる。夜が明けたら、地上に戻すよ。兄貴には、兄貴の人生がこれから待っているから…ね、それをオレ達が台無しにしちゃいけない…」

愛しいものに触れる様に、そして壊れ物に触れる様に、シモンは優しく少年の髪に絡ませた指を引き抜き、そしてゆっくりと頭を撫でる。そんなシモンの仕草にヨーコは僅かに目を細め優しく微笑み、2人の前へと歩み寄るとその場へ膝を突き、すやすやと眠る少年の寝顔を覗き込んで

「うん。ニアも心配してたわ。シモンのこと」

少年の目鼻立ちをじっと見詰め、一瞬だけ自分の知っているカミナを投影しているかのような、何処か遠い表情をした後、そうシモンへと言葉を続けた。その言葉の意味は、シモンの先ほどの突発的な暴走に関しての危惧を現しているものだった。

「ニアに心配かけちまうになんて…ダメだな、オレも」

シモンはそう呟きながら、少年の髪を撫で続ける。
それはまるで失われて行く時間を惜しんでいるかの様な、焦燥感に満ちたもので、そんなシモンの姿を見てヨーコは胸が締め付けられる様な痛みを感じていた。

自分達は、あとどのくらいカミナの「死」を見届けなければならないのだろうか。
そして、あとどのくらいカミナを救えない事に耐え続けなければならないのだろうか。

どの次元でも、失われ続けるカミナの生命。
それに知った時、気が狂いそうなほど血反吐を吐いて泣き叫び、身食いの獣の様な行為で自らの身体を疵付け続けたシモンの悲痛な声を、ヨーコは忘れられなかった。
もう二度と、あんな胸を締め付けられる様な悲しい泣き声は聞きたくないと思ったのに、また次の次元で同じ思いをさせられる。
そして漸く現実に慣れ始めた頃、この幼いカミナに出逢ったのだ。

「けど…ヨーコ。この兄貴は…このまま地上へ戻ったとして…ジーハ村に戻ったとして…このまま生きてけるのかな… だってこんな小さな手で…オレの知ってる兄貴みたいに問答無用の強さを持ってなさそう…ッ」

と、はっと顔を上げ、シモンは何かを思いついたかの様にそう言い出す。
その瞳は、以前みた事のあるカミナを失ったときに見せた、妄執に取り付かれた様な何処か色の違った瞳で、ヨーコはこれをニアは危惧していたから自分を此処へ寄越したのだと気づいた。

「シモン、ダメよ…そんな事考えちゃ…それは絶対に許されない事なんだから」

ヨーコはそう言って俯いたまま少年の頭を撫で続けるシモンの両肩に手を添え、諭す。

シモンは知らない。

カミナは強くなどなかったという事を。
シモンがいたから、カミナは強くいられただけなのだ。
どれだけカミナがシモンの強さにに憧れていたか、どれだけシモンという存在に救われていたか。
丸い月の静かな夜、カミナがぽつりと呟いた本心からの弱音をヨーコはシモンの言葉を聞き思い出した。
いつでも思った事を全て言葉にするカミナが、あんな想いを胸に秘め続けていた事は、多分、自分しか知らないだろう。勿論それを誰かに言うなどという事をする気もない。

「…うん。判ってる…判ってるさ…けどね…」

反対にシモンは、いつも強いカミナの背ばかり追い続けていたせいか、自分にとってカミナは最期までその背を越えられないまま手のとどかない人になっていたのだ。
そのせいか、シモンの中ではカミナはいつでも最上級の位置にいた。
だからこそ、この膝の上で健やかな眠りに落ちている少年の頼りなさが自分の知っているカミナとはあまりにもかけ離れており、庇護欲を生み出してしまったのだ。

このカミナを護れるのは自分だけなのだという、半ば妄執にも似た感情をシモンは抱いてしまったのだった。



シモンの眼が、この少年を通して何処か遠くを見詰め、そしてそれが闇色に染まり出していることに気づき、ヨーコの背筋が粟立つ。シモンは聡いから、一の言葉で十を知ってくれるのだが、カミナに関しては、それが違うベクトルに向いてしまう傾向があり、それをニアやリーロンは指摘し危惧していたのだが、今まさにその状態に陥っていた。

「…バカッ!」


そう大声で怒鳴るのと同時にヨーコは、震える手で執着する様に少年の頭を撫で続けているシモンの頬を平手打ちした。

「ヨーコ…」

ハッと顔を上げ、シモンは平手打ちして来たヨーコの顔を見詰める。

「このカミナには、このカミナの人生があるの。それを私達の身勝手な思いで変えたりしちゃいけないって事ぐらいわかってるでしょうッ! 私だって…ほんとは… ほんとは…ッ でも、本来此処に存在してはいない私達が干渉したら…これからの此処の世界の歴史が変わっちゃうのよッ! こうしてカミナを救った事ですら、もう随分と歴史を変えちゃったっていうのに…」

ヨーコは口唇を噛み締め、両手をそのまま下ろし握り締めた拳を震わせながら眦に涙を浮かべる。
感情が昂ぶり、ヨーコは肩を震わせていた。
あれから何年の時が過ぎたのだろう。
気がつけば、カミナの年齢をとうに過ぎてしまい、永遠に時が止まった彼を置き去りにして自分達は大人になった。

「ぅ…ん…」

呆然とシモンはヨーコを見詰めていたが、周囲の五月蝿さにシモンの膝枕で眠っていた少年がもそりと眠たい眼を擦りながら起き上がり、とろんとした眼で二人を交互に見渡すと、二人の間に流れる空気にビクッと身体を震わせ、ヨーコに平手打ちをされ赤くなってシモンの頬にそっと手を添えて

「どうした…の? 何怒ってるの?」

と、二人へ問いかける。
しかしシモンは無言のままで答えてはくれず、困惑した表情で少年は涙を浮かべているヨーコへと視線を移す。詳しいことは判らなかったが、女の人を泣かす男の人はよくないと考えていた少年は、もう一度シモンを見詰め

「ヨーコさん、ないてるよ? どうしたの?」

と、言葉を続ける。
長めの空色の前髪から見え隠れする大きく透明な独特の色合いを持った赫い眼が瞬き、その色彩が矢張りこの少年はカミナなのだと再認識させられ、思わずヨーコは少年の身体をそっと抱きしめ

「ごめんね、起こしちゃって。なんでもないの」

そう言うと再び自らの腕からそっと離し、両肩に手を添えて微笑むと立ち上がってそこから去ろうと歩み始める。

「シモン、私達は間違えちゃいけないって事だけは忘れちゃダメなの…」

そしてそう言い残し、部屋から去っていった。



「…シモン…さん? 何があった…の?」

ヨーコの言葉とシモンの態度がどうにも気になって仕方がなかった少年は、隣に座っているシモンへ問いかけてみる。
が、しかし返事がない。

「…シモン…さん?  …ッ」

返事がない事に不安になった少年はフッと俯いたままのシモンを覗き込み、そして小さな悲鳴とともに息を飲んで後ろへと後退った。

「ご…ごめんなさ… もうきかないから…」

カタカタと震え、少年はソファの肘掛にしがみ付く。
そのときのシモンの表情は、少年にとって言葉に絶しがたいもので、ただ怖かった。
シモンが抱く心の中の闇の深淵を垣間見てしまった少年は、この場から逃げ出したい衝動に駈られたのだ。
見てはならないものを見てしまったという、罪悪感と恐怖が少年を襲う。

「…ッ」

そんな少年の怯えた声に漸く気づきシモンは慌てて、怯えて及び腰になっている少年に対して顔を上げ引き攣ったなりに笑顔を見せる。自分の顔が、幼い子供を怯えさせるたけのものになっている事実に青ざめてしまったのだ。

「ご…ごめん。怯えさせるつもりはなかったんだ。ちょっと…考えちゃいけないことを考えて…ヨーコにしかられただけだから兄貴は関係ないし、心配しなくてもいいから…」

口元を引き攣らせ、シモンは少年へ手を伸ばす。
一瞬、手を伸ばされた少年は怯えたようにビクンと震えたが、先ほどと比べシモンから醸し出されていた雰囲気が一蹴されていたのでホッと溜息を吐いて、少年はシモンにされるがまま再びくしゃりと頭を撫でられた。

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