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キャプテン・シモンとチビカミナシリーズ -悪夢を見る夢を視る-

翌朝、地平線から太陽が昇りだした頃、ダイグレンは上空で繋留する為に打っていた亜空間アンカーを引き上げ、地上へと再び降りてくる。
獣人の襲撃を避ける為なら、本来は夜間行動すべきなのだが、夜間活動する獣人もいることを過去の経験から学んでいたので、矢張り視野の明るい太陽が昇ってからのほうが安全だということで早朝にこうして降下してきたのだ。

「そろそろ、お別れだ。気をつけて…な」

地上にアンカーを下ろし、艦底の小型ハッチを開き、シモンとヨーコ、そしてリーロンの3人が少年を見送ることにした。副官はブリッジから離れられないし、キタンは機関部のメンテナンスを担当しているので一度だけ少年の顔をみただけで、それ以降姿を見せてはいなかった。

「ここから1キロも満たないところに地下への入り口があると思うわ。あなたなら、どう戻ればいいか、わかるでしょう?」

小さな機械端末を手に、リーロンが指差した方向を見て、少年は大きく頷く。

「ありがとうございました。ほんとうなら、おれいをしないといけないんだけど、おれには何もないから…」

ハッチの上部から赤い砂礫の大地を眺めていた少年は、リーロンの言葉に振り返り、3人に向けてぺこりと頭を下げ昨日助けてもらったお礼を再びする。
着ていた服も綺麗に洗われ、破れたところも元通りとまでは行かないがちゃんと縫い合わせてあった。

「気をつけてね、また…もし会うことがあったとしても、君は覚えていないでしょうけど」

「子供が遠慮するもんじゃないわよ。ほんとに…」

ヨーコとリーロンは次々と少年へ声を掛けるが、シモンは無言のままじっと少年を見詰めていた。
そんなシモンに対して、少年は少しだけ小首を傾げ微笑む。
怖い思いをしたが、助けてくれたのはシモンだったし、シモンがいなくては自分は今こうして再び大地を踏むこともなかったのだ。だから、言葉に言い尽くせないほどの感謝をしていた。

とことこと、少年はシモンの前までやってくると、小さなもみじの様な手で両脇に下ろされたシモンの白い手袋をした手に触れ、そして人差し指をぎゅっと握り締める。
そんなさり気無い少年の仕草が、彼らはとても愛おしく感じた。
矢張り、次元は違っても、年が違っても、カミナはカミナなのだと実感した瞬間でもあったのだ。

「みなさんも、きをつけて」

そっと少年は握り締めていたシモンの人差し指から手を離すと、再び3人を見渡しそう言ってもう一度頭を下げ、ふいっと踵を返しタラップを駆け降りて行く。

「…ぁ」

ぎゅっと人差し指を握ってきたそんな少年に、シモンは名残惜しげに手を伸ばしかけ、苦悶の表情を浮かべてゆっくりと下ろす。
名残惜しいのではなく、未練なのだ。
幼く、小さな少年をどうにかして自分の元へ、傍へ置いておきたいという、だだただ身勝手で独り善がりで傲慢な独占欲で。その欲望は、執着は一種狂気にも似たほどに狂おしいもので、それを押しとどめる為に、シモンは必死に堪えていた。

それは、当然かもしれない。

一度手に入れてしまったものを再び手放すというのは、非常に困難なのだ。
それが、二度と手に入らないものなのだと判っていればこそ、その想いは激しいものになる。
しかし、ヨーコが言うように、その想いは赦されないものだのだと、シモン自身十二分に判っていた。
判っていたからこそ、必死に耐えていたのだ。

「…さよなら、兄貴」
両脇に下ろした手が自然とぎゅっと拳を作り、駆けて行く少年の背を見送る。

そんなシモンを慰めるように、リーロンが軽くポンと肩を叩き、ヨーコはシモンを見詰めこくりと頷く。
二度と少年に会うことはないだろうが、それは仕方のないことだった。
それが自分達に課せられた、運命なのだから。

「みなさん、さような……ッ」

その時だった。
タラップから駆け下り、大地に足を踏み下ろして再び振り返り手を振ろうとした瞬間、何処かからか真っ直ぐに少年を目掛けてボウガンの矢が射られた。

「…なッ あにきいぃいぃぃーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」

その場にくたり…と、力なく頽れた少年を目前にしてシモンは絶叫し、ヨーコは両手を口に持って行き言葉にならない悲鳴を漏らしてガクガクと震え出す。

「副官ッ! 何してるのッ! 半径50メートル付近へレーザー掃射砲一斉掃射ッ!」

そんななか、独りリーロンは冷静に腕を振り上げ、インカムでブリッジにいる副官に対して命令を下すと同時に、甲板にあるレーザー掃射砲がダイグレンが繋留する周囲に向けて一斉砲火を開始した。

「あに…ッ  兄貴…ッ っ カミナぁーーーッ!」

目の前で起きた出来事に呆然となり、シモンは身体が硬直して動けないでいたが、

「何してるのッ! 早くカミナをここまで連れてきなさいッ!」

と、冷静に判断していたと思われたが、震える指で小型送信機を操作していたリーロンが、シモンへそう言イながら同時にインカムで医療班を至急、艦底ハッチへ来る様にと手配している姿に正気に戻り、よろよろと蹌踉めきながらもタラップを駆け下り、シモンは少年の元へと向かった。





「兄貴…アニキ…アニキ…あに…き…ッ」

くたりと地面に頽れている少年に足を絡ませながら辿り着くと、シモンは必死の形相で抱き起こす。
射られた矢は、少年の胸にしっかりと刺さっており、既にそれが致命傷であることを示しているかの様に、抱き起こすと同時に、小さな口からぷくりと血泡が零れ顎を伝い落ちてゆく。

「シ… モン… さ…」

閉じられていた眼がゆるゆると開き、小さな手でシモンの頬を濡らす涙をツッ…と拭う。

「ダメだ 喋っちゃ…ッ」

シモンは口唇をギリリと噛み締め、こんな状態になってもこの小さなカミナは自分の身体ではなく他人を思い遣っていることに腹が立ってきた。考えてみれば、この少年がどれだけそういった状況下で育っていたかが良く判ることだったのだが、今のシモンにはそんなことはどうでもよかった。

「ないたら…ダメだ よ シモンさんは… 男だ ろ… こんなこと で ないた ら…」

そう、途切れ途切れに言葉を紡ぎつつ、力のない小さな手が、何度も何度もシモンの頬に伝う涙を拭い続けていたが、身体が硬直した様に震えたかと思うと、空色の長い前髪から見え隠れしている赫い大きな瞳が見開かれ、そして頬に触れていた手が唐突に地面へと落ち、一瞬だけシモンへ柔らかく微笑みかけそのままゆっくりと瞳が閉じられたのだった。

「……ッ」

シモンの喉から、押し殺した悲鳴が漏れる。
身体は瘧が起きたかの様に震え、少年を抱きしめていた腕に力が入る。
そして、レーザー掃射砲で辺り一面を焦土と化させただけでは気がすまなくなったのか、少年を抱いたままゆっくりと立ち上がるとマントを翻させタラップを一歩一歩踏みしめるように上って行き、ハッチの入り口までやってくると振り返り、そのまま手を振り翳して

「人間以外の生命反応があれば…全て焼き払えッ! この辺りの…人間への不安要素となりうる全てのものを抹殺しろッ!」

と、静かでありながらも激しい感情を剥き出しにした指令を全艦へ下した。


「急げッ! 時間がないッ!」

「手術室と蘇生装置の準備は出来ているッ!」

「艦長っ! この子を連れて行きますよッ!」

リーロンが連絡を行っていたため、ハッチから格納庫に戻ればすぐに医療班が準備しており、シモンの腕の中の少年を半ば奪い取るようにして医療班はストレッチャーリフトへ横たわらせると、そのまま簡易手術室へと忙しなくストレッチャーリフトを起動させ走り去って行く。
そしてそれをシモンはただ呆然と見送るしか、すべは残されてはおらず、そのままそこへがっくりと膝を突く。

「…よく…我慢したわね、矢を抜いていたら危なかったわ…」

その場に跪き、俯いたまま微動だにしないシモンの肩にそっと手を置き、リーロンは優しくその肩を叩く。そして矢張り座り込み、ただ滂沱する涙を拭うことも出来ないでいるヨーコに向かい、

「大丈夫よ。助かるわ。いいえ、助けなくちゃ…ね」

と、まるで自分にも言い聞かせているかの様な口調で、慰めたのだった。










「じゃあ、ここの兄貴は、今の時点で死ぬ運命にあったということなの…か…」

蘇生室に入り24時間体制で医師の監視下に置かれた少年をガラス一枚越しから眺めつつ、シモンはリーロンがコンピューターから打ち出した理論を噛み砕いて聞かされつつそう呟く。

「ええ。シモンが昨日あの子を助けたでしょ。でもね、本当はあの時点であの子の命運は尽きていたの。でもあなたが助けたから生き伸びられたんだけど、それは一時だけのもので、矢張り定められた不文律の環にあの子もいたということなの」

リーロンはそう言いつつ、今まで出逢ってきたカミナのデータをモニターへと映し出す。
しかし、どのカミナのデータも、途中から空白になっていた。
そしてそれらは全て、17歳よりも若いデータで、それ以上の年齢のデータはひとつも残っていなかった。

「私達が出会ったあの子の中で、一番短命だったって事になるのかしら。可愛そうに…まだまだたくさんの可能性があったかもしれないのに」

モニターを通して何処を見るでもない表情で、リーロンはぽつりと呟く。

「辛い…わね」

気がつけばいつの間にか、時が止まってしまったカミナの年齢を越え、大人になってしまったシモンとヨーコは、それでも永遠にカミナの背を追い続けていた。
既にカミナの伝説は風化し、自分達の方が宇宙の伝説のになっているというのにも関わらず。
ガラス越しに眠る少年も、そんな自分達の知るカミナと同じ様に、そして自分達の様に伝説の人物になったかもしれないというのに。

ガラスの向こうでは、ヨーコが医師たちに言われたように白装束に身を包み、消毒して布に包まれたものを持ってごそごそと動いていた。

「いつ目覚めても、寂しくないようにだって。ヨーコらしいわよね」

紙の様に青褪め真っ白な肌の眠ったままの少年の傍に、ヨーコは布に巻かれたものを取り出す。
それは、シモンの片腕に巻かれていたカミナの遺品のマントの切れ端と、矢張りカミナの遺品の長倭刀で、マントの切れ端は枕元へ長倭刀は壁へと立て掛けたのだ。
そんなヨーコを見て、シモンは苦しそうな表情をする。
自分には出来ないことを、ヨーコはさらりとこなしてしまうからだった。

「…そんな眼で見ない。シモンにはヨーコに出来ないことが出来るんだから。あなたはそれをすればいいの。それがあなたの仕事よ」

そう言うってリーロンは薄く微笑み、コンピュータの電源を切る。

「じゃ、私は寝るわね。夜更かしは美容に大敵ですもの」

リーロンはガラスをノックしてヨーコに外へ戻って来るように促し、

「あなたも、ちゃんと寝なさいね。艦長としての責務があることをゆめゆめ忘れないように」

そう続けると軽くシモンへウインクして部屋から出て行く。

蘇生手術は成功したのだが、少しほんの少しだけ手当てが遅れてしまった
せいで、少年の意識は戻らなかった。このまま眠ったまま一生を過ごしてしまうかもしれない。
それは誰のせいでもなく、運が悪かったとしか言いようがなかったのだが、シモンはそれを自分のせいなのだと、自らを責め立てている姿に居た堪れなくなり、ヨーコは

「ちょっとお寝坊さんなだけよ。もう少ししたらきっと起きるわ。だからそのときまでシモン、傍にいてあげて。私じゃダメなのよ。こればっかりは。ね?」

そう促し、自分の着ていた白衣をシモンに手渡し中へ強引に押し込めたのだった。



ベッドの横に椅子を置きシモンはそこへ座り、少年を見詰めその色のない青冷めた頬にそっと手を添える。
生死の境を彷徨いながらそのちいさな身体で、よく大手術を耐え切ってくれたと、シモンは感動していた。
とは言うものの、まだ蘇生措置の真っ最中なせいか、その頬は冷たく、その冷たさは生きているものには感じられないほどで、思わず手を引っ込めてしまう。
しかし、ちゃんと呼吸をしているのを確認すると、ホッと溜息を吐いて再びその冷たい頬へと手を添え優しく撫で続けた。人の体温を感じ、目覚めるかもしれないとシモンは思ったからだった。


あの時、大手術を耐え切ることは出来たのだが失血のショックが大きかったらしく、術後数日経っても少年は目を覚まさず、あれから数日が過ぎてしまっていたのだった。


「兄貴… もうオレは二度と兄貴を手放すものか。兄貴はオレのものだ…オレがずっと護り続けるんだ…」


シモンは仄昏い笑みを浮かべつつ、自分達が助け、この艦に搭乗することによって定められた運命という円環から外れる事が出来た目の前の少年に向けて、そう呟くとそっと少年の小さなもみじのような手を取り、その甲に口接けるのだった。

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