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エースの条件


『味方が全滅とだってのに、ヤツだけまた生き残ったんだとさ』

『流石はエースパイロットは違うよなぁ、おい。部隊全滅しても自分だけは助かるんだからよぉ』

『あいつの父親ってテスラ研の科学者だって言うじゃねえか。どうせお偉いさんと繋がってるんだよ。だからいい気になってんじゃねぇのかぁ?』

『ヤツが配属された部隊は、いつも全滅になっちまうらしいゼ、本当はヤツが味方も一緒に墜としてんじゃねーのかぁ?』

『ああ、あり得るあり得る』



イルムは所属する部隊が全滅し、更には同僚の大半をも失い、それでも何とか敵を撤退させるまで善戦したのだが、この所の度重なる出撃でメンテナンス不良が祟ったのかエンジンは焼き切れ、単独での飛行が不可能となってしまっていた。
そこでイルムは連邦の識別信号とSOSを交互に発信しつつ、不時着した島で青い大空を眺めながらこの海域で一番近くを航行している艦船の救助を待っていた。
そこへやって来たのがこの艦船だったのだが、彼を待ち受けていたのは、明らかに中傷と悪意に満ちた視線だったのだ。
叩き上げの軍人や風評しか知らない者達にとってイルムの存在は、諸手を挙げて喜べるものではない事ぐらいイルム自身、今迄の経験から十二分に判っていた。

何処へ行っても、テスラ・ライヒ研究所の一級科学者の息子と言うレッテルは剥がされる事はない。


『若造のくせに』

『お偉いさんにケツでも振って、捏造でもしたんじゃないのか』



今迄配属された部隊でも何度も聞かされた言葉だったし、それぐらいならまだしも上官と下士官の結託によってシゴキと称した暴行も何度も受けたことがあった。
彼自身の経験から抵抗すれば相手が付け上がる事を、士官学校時代から延々と続くこの腐った状態を身を持って体験をし続けて来たので、無駄な行為は行わないのに徹していた。
そうすれば、相手はじきにに飽きてくるのだ。

「回収、ありがとうございました」

度重なる戦闘での緊張で、疲労はピークに達していたイルムだったが着艦申請を許可し、回収してくれたこの艦の艦長と、その部下達に対しては当然敬意を表さなくてはならない。
幾ら、嘲笑や侮蔑、中傷にまみれた言葉を投げかけてくる相手に対しても、そうひと言付け加え、イルムは一礼をして、格納庫から去ったのだった。

「艦長がお待ちです」

副官であるだろう人物に促されつつ、イルムは重い足取りで彼に着いて行く。
軍と言う完全な縦社会に置いて、上官の命令や発言は絶対なのだ。

「済みませんね、デッキではご気分を害されたでしょう? この艦にいる総てが彼等と同じではないのですがね…」

自分の前を行く副官は薄く笑みを浮かべつつ、イルムにそう言った。

“…徹底的にキラワレちゃってる訳ね、俺は”

その副官の科白で、イルムは確信が持てたのだ。
この海域を巡洋艦たった一隻で航行している事自体可笑しいのだ。
多分、自分は招かれざる客だったのだろう。

「いえ、こちらの方こそ感謝しております…」

心の中で抱いた思いをおくびにも出さず、イルムはにっこりと笑みを返す。
その笑みが嫌味に思えたのだろう。副官の表情は、先程とは打って変わって渋い顔になり、

「こちらが艦長室です」

と、自分は一歩下がり、彼を艦長室の前へと進めたのだった。



「君の噂は、常々耳に入ってくるよ。流石はエースパイロットの勇名は伊達ではないようだね」

そう言って、イルムを椅子に座るように手で勧める艦長の視線は、まるで品定めをしているようなものだった。

「…ありがとうございます」

そう言って、イルムは勧められるまま椅子に座った。ここで遠慮をしても自分の為にはならないと判断したからだ。だが本来なら幾ら勧められたからとはいえ、座るべきではないのだが敢えてイルムは座る。
それは、相手が自分をどのような目で見ているかどうかで判断していたのだ。
今、目の前にいる艦長も、不信感が宿る視線で自分を眺めている。
そんな視線にはもう慣れきっていた。
だからこそ、こうして一見軽そうな風体を武器に、強かな態度で行動してきたのだ。
当然だろう。叙勲を受けた時に、自分の姿を見ているのは軍上層部の僅かな人間達だけだ。
それも戦時下であるが故、その式典の中継は少将クラスの叙勲のみを放送し、士官以下は名前が読み上げられただけなのだ。
その中でもイルムは、まだ年若いというのにも関わらず、初出撃で一気に5機を墜とすと言う偉業を成し遂げた為に叙勲は大仰なものとなり、少将クラスと同じ扱いを受けたのだ。

そして、出撃するたびに次々と功績を挙げて行きその勢いは留まる事を知らず、今に至っており。


「君の所属する基地には連絡をいれて置いた。直ぐに迎えを寄越してくれるそうだ。そのランデヴーポイントまでの僅かな時間、私は君と少し話がしたいのだか、いいかね」

艦長は目を細めつつ、顎髭を撫でながら正面に座るイルムへと問い掛けた。
自分の上官ではないが、そう切り出されてしまえばイルムに拒否権は出来ない。

「…はい。私とで宜しければ」

「ああ、良かった。いやだと言われたらどうしようかと思ったんだかね」

そう言った艦長の口元には、何を考えているのか判らない様な笑みが浮かんでいた。

“…嘘をつけ…こっちにそんな権限なんかない事ぐらい承知の上で言ってやがるくせに…”

心の中で悪態を吐きながら、イルムはその笑みを見なかった様な態度でにっこりと微笑みを返す。
だが、相手にその彼の考えなど判るはずもない。

「…では、これは私やこの艦のクルーだけでなく、軍の殆どの人間が疑問に思っている事なのだが、君は何故、自分の愛機に撃墜マークのペイントを施していないのかね? パイロットなら誰しも憧れる“星”は、エースパイロットの証明でもある。…君ほどの戦歴の持ち主なら、撃墜王として“星”はもう二桁は描かれていてもおかしくはないだろうに」

艦長がそう切り出した言葉は、イルムが思っても見なかった言葉だった。
そしてその艦長の科白で、イルムは軍内での自分の微妙な位置がはっきりと判った。
歴戦の勇者として、どうやら軍は自分を広告塔に仕立て上げたいのだろう。
エースパイロットとしてのイルムガルト・カザハラが軍には必要であるのだと。

「…撃墜マークをペイントすると言うことは、それだけ人殺しを沢山して来たと言うことでしょう? 勿論、兵隊に思想や意志は必要ないのだと思いますが……ですが…私は…それを自慢出来るほど強くはありませんので…」

そうイルムは艦長に向かって、軽く笑みを浮かべて言うのだった。
けれどその笑みは、酷く疲れた様な自嘲気味なもので。
それが、例え軍紀違反に属する様な物言いだったとしても、そう答えるしかイルムには方法がなかった。
勿論、美辞麗句なら幾らでも並べ立てられる。だがイルムには、それが出来なかった。

「…そうか」

艦長は、そうひと言呟くと椅子の背もたれに背を預け、溜息をひとつ吐く。

「済まなかったな、試す様な物言いをして。私も…多少なりとも、君の思いが判らんでもないが…まずはその考え、私に預けては置かないか。その考えは…後々…君を追い詰めかねんのでな…」

瞬間イルムは腰を上げ、目の前の艦長に向かって何かを言いたくて口を開いたが言葉が出て来ず、小さく口唇が震えただけだった。

「近頃の若い者は、己の力量も判らず、功績だけを求めて焦っては散っていく。そんな中、君だけは違っていたようだったのでな、気になっていたのだ。エースパイロットと言う肩書きは、決して軽いものではない。それを知っているからこそ、撃墜マークがペイント出来なかったのだな…」

「…あ…」

浮いた腰を再び元へ戻し、イルムは項垂れ小さく嗚咽を漏らす。

「だが…その優しさは戦場には不必要なものだ。非情になれ。でなければ、次は君が敵機の“星”になるぞ…。軍は君を広告塔にして新兵を集める気でいる。また、未来のある若者達が戦場で散って行くのだ。その片棒を担がされるのだと認識して、甘い考えは捨てた方がいい…それがエースパイロットの隠れたもう一つの役割だと、認識しなさい」

項垂れたイルムを見詰め、艦長の口調は先ほどとは打って変わって、諭すようなものになっていた。

「…あ…ありがとう…ございます」

「時代にはヒーローが必要なのだよ。それが運悪く…と言うか運良く、君にお鉢が廻って来てしまっただけなのだ。これからもっと大変な役回りになるやもしれんが…我慢して道化師になって貰えないか…私は、決して君の事は嫌いではない…反対に好感すら持てる。だからこそ…」

艦長が言葉を続けようとした時、通信が入り、イルムの所属している基地からの輸送機とのランデヴー海域に達した事を告げられた。

「済まないね、私ばかりが話していたようだ。今度会うときは、君からちゃんと話が聞きたいな」

そう言った艦長は立ち上がり、イルムの肩を軽く叩き、

「さあ、お迎えが来た。自分の居場所に戻りなさい。私たちは君を帰した後、任務があるので早々にこの海域から立ち去らなくてはならないのでね。…あ、そうそう。近日中に君が所属している基地へ特命を受けた者が行くかもしれん。その時は…」

と、言いながら壁に掲げ挙げられた連連邦軍旗を横目でちらりと見る。
その意味は判らなかったが、多分、この艦長も再三辛苦を飲んできていたのかもしれない。


「ご鞭撻、ありがとうございました…」

イルムは立ち上がり、艦長に向かって敬礼をする。

「では、達者でな」

「艦長こそ、どうかご無事で」

そう言ってイルムはその艦から去った。



そして数日後。

イルムの所属する基地へその時の艦長が言うように、特命を受けた軍人が訪れ、イルムは同期のリン・マオとともにPTXと言う特殊任務チームへの配属が決定し、戦闘機乗りからPT乗りへと変更したのだった。
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