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雨の降る日は天気が悪い(シュウマサ)

コンコン。

雨音に紛れ、小さく。本当に、耳をそばだてなければ聞こえない程、微かなノックの音に気が付いたシュウは、ペンを走らせていた手を止め、静かに立ち上がる。

そして無言のまま、ドアの側へ歩み寄るとそっとドアを開けた。

「・・・。」

そこには俯き、ずぶ濡れのまま立ち尽くしているマサキがいたのだ。 多分、ここへ来るまでに身体が冷え切ってしまったのだろう。

普段は少女の様に薔薇色染まっている口唇が、酷く青ざめていた。

「・・・いったい、どうしたのです?」

その表情から、何事かが起きただろう事を察したシュウは、自分が羽織っていたローヴを脱ぎ、マサキの肩へとそっと掛ける。

「お入りなさい・・・こんな所にいつまでも居たら、風邪を引きます。」

いつもなら尽くシュウの言葉に反応し、抵抗を試みる筈のマサキだったが、今日は彼に促されるまま部屋へと入って行く。

「・・・何も、聞かないのか?」

部屋に通されたマサキは俯いたまま、勝手知ったる他人の家の言葉通り、すたすたと奥へと進んで行き、リビングにあるソファの所まで来ると、くるりと向きを変え背後からゆっくりと付いてくるシュウに向かってそう言うのだった。

するとシュウは、

「・・・聞いて欲しいのですか? 私にはとてもそうは思えないのですけれど。」

と目を細め、薄く笑みを浮かべながら、マサキの傍へと歩み寄って行く。

その表情は普段の彼とは異なり、本当に裏のない、心の底からマサキの事を気に掛けている・・・といった表情だった。

「・・・っ」

そんなシュウに対しマサキは面を上げ、突然堰を切ったかの様に言葉を吐き出す。その姿は、まるで激情に翻弄されているかの様で、自分の感情を制御出来ないでいる様だった。

「・・・なんで・・・っ! なんで、てめーは・・・そんなに優しーんだよっ!普段はあんなに、ひとの揚げ足を取るのが上手って、いじわるで、どーしよーもないくらい性格がねじ曲がってる癖に、なんで俺がこうして何にも言わないでやって来ても、何事もなかったように平然と受け入れるんだよっ! おかしーじゃねーかっ!」

シュウからすれば、今のマサキの科白は全くと言って良いほどお門違いのものだっただろう。けれどシュウは、そんなマサキの態度に平然とした様子で、

「・・・けれどこうしてあなたは来た。と、言うことは、あなた自身、こうして私が何も問わず迎え入れる事を前提に来たのではないですか?」

と、言い放ったのだ。

「・・・シュウ・・・てめーは本当に狡いよ・・・俺がここに来るしかないって判っててそーいうんだから・・・。」

口唇を噛み締め、マサキは呟く様に言葉を吐き捨てる。

実際、彼自身も十二分に判っていた。こうしてシュウの元へ訪れては自分の言いたい事ばかり言って、我が儘や八つ当たりをする自分がどれだけ自分勝手な行為をしているか。

シュウがそれを享受するだけの懐がある事を知っているのを、自分は利用しているのだと。

「・・・くすっ。本当にマサキは真っ直ぐですね。だから私はこうしてあなたに惹かれるのですが・・・。」

けれどそれ以上にシュウはマサキを利用している。

決して本人に気付かせない様に。

「さ、身体が冷え切っていますよ。シャワーでも浴びて、冷えた身体を暖め乾いた服に着替えてから話の続きをしましょう。」

まだ何かを言いた気だったマサキの肩を軽く叩き、バスルームへ行く様にと促す。何かを告白するにしても、何も語らないにしても、冷え切ったままでは身体に毒だ。シュウはそう判断した。


外はまだ雨が激しく降り続いている。

こんな天気の日にマサキが自分を訪れる事など、今まで無かった事だ。

感情の起伏が激しく、どちらかと言えば好き嫌いをはっきり言葉にするタイプのマサキが、言葉を濁す程「雨の日」は彼にとって微妙な日なのだろう。

ただ以前一度だけ、窓に打ち付ける雨の滴を指で伝わせながら『余り、雨は好きじゃない』と呟いていたのを聞いた事があった。

その時は何気なく聞いていた為、心に留める事はなかったのだが、こうしてマサキが雨の日に訪れる事を予測できていたら、シュウはあの時彼の言葉をちゃんと聞いておくべきだったと、少しばかり後悔していた。

「・・・シュウ。」

バスルームから出てきたマサキは、大きめのバスタオルで身体を包み、まだ雫が伝い落ちるほど濡れた髪のままだった。

その姿は、まるで雨の日に捨てられた子猫の様で、今にも生命の灯火が消えてしまいそうなほど頼りなげな姿だった。

「ちゃんと身体を拭いて来なくてはいけませんね。折角シャワーを浴びて身体を暖めたのですから。」

そう言いながらシュウは、側にあるクローゼットからタオルを取り出すと、濡れたままのマサキの髪を拭くために、それをそっと頭の上へと被せ、軽く拭き始めた。

優しいタッチでマサキの髪を拭くシュウの指は、とても男性のものとは思えないほど細く、丁寧な仕草で柔らかくしなやかに動く。

「・・・シュウ、俺・・・。」
互いの身長差はそれ程ではなかったが、多少見下ろされる状態だったマサキは、まだ濡れて乾いていない前髪の間から上目遣いで、何か言いた気な眼差しをシュウに向ける。

しかしシュウは小さく頭を振ると、

私はそれほど野暮ではありません。過去に・・・雨の日に・・・マサキに何があったのかなど興味もありませんし・・・ね。ですから、あなたは何も言わず、猫の様に気紛れにここへ訪れればいいのです。」

そう呟く様に言いつつ、ふと前髪で僅かに隠れるマサキの真っ直ぐな瞳を見たくなり、そっと指先で邪魔な前髪を払い除ける。

まだ少年の名残が多少見受けられる、ほんのりと丸みを帯びた面立ちに、意志の強さが窺い知れる眉根と大きな瞳。

そしてその強い筈の意志が揺らいだ時に見せる、震える睫毛。

その総てが、シュウには愛おしかった。

「・・・マサキ。」

吐息の様に甘い声色で、シュウはマサキの名を呼ぶ。

一方マサキは、その痺れる様な声にぴくりと身体を震わせたかと思うと、無言のまま静かに、ゆっくりと瞼を閉じた。

「・・・今日は・・・帰しませんから・・・ね。」

シュウはそう言って優しく笑みを浮かべると、そっとマサキの瞼に口接けをする。
 

まだ、雨は降り続いていた。
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