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PROJECT NIGHTMERE?2?(ナイトメア計画)

《記憶》
「イルムガルト中尉応答せよ。繰り返す、イルムガルト中尉応答せよ」
グルンガストの出撃に10分ほど遅れ出撃したイングラムの駆るR?GUNが、神島に向かう海上からグルンガストに向けて交信を何度も試みたが、酷いノイズしかスピーカーが聞こえて来ない。
基地からもグルンガストに向けてひっきりなしに呼びかけてはいたが、強力なジャミングに遭っていたのか、矢張り通信不能で返事がなかった。
『こちらR?GUN、イングラム機。神島沖ポイント707地点に到達した。これから神島に上… 』
コンソールレシーバーを使い基地司令部と交信している真っ最中に、イングラムは正面に見える神島から煙が立ち上るのを発見し、一瞬言葉が止まる。
『どうしました、イングラム少佐』
不審に思ったオペレーターが、問い掛けてくると、イングラムは正面を見据えたまま
『神島でグルンガストが敵機と交戦中の模様。直ちに向かう』
そう言うと一方的に交信を絶ち、バーニアを噴かした。
同時に基地司令部のオペレーター達は通信システムの一部を変更し、緊急回線でグルンガストに交信を再び開始したのだった。




「イルム… ルト中尉…っ  応答願…ますっ  応答を…っ! イルム中尉っ!」
コクピット内は、それ以上に小さな破裂音や、寸断された回路から飛び散る火花の音に蒸気が吹き出す音、砕けたモニターが落ちる音や、衝撃によってコンソールパネルに亀裂が入りそれが弾ける音などが酷く、緊急回線から響く酷い雑音混じりの割れた途切れ途切れの声は、それらの音や砕けたキャノピーから入る風の音に流されていた。

「……は…っ  はぁ…っ」

そんないつ機体が誘爆を起こしてもおかしくない状況の中、脱出装置が作動しないシートに座ったままの状態でイルムは呆然としていた。
いや、その表現方法は間違っていたのかも知れない。
あの閃光の中心にいたのだ、普通なら機体事爆発して姿形が無くなっていてもおかしくはない状態であったのに、グルンガストは原型をほぼ留めていたのだ。これでグルンガストがどれだけ頑強な機体であるかがよくわかった。
その状態の中にイルムがいるのだ。呆然としていたのではなく、半分は意識が朦朧として自分の置かれている状況がただ判断出来なかっただけなのかも知れない。
そんな中、ぼんやりとした状態のイルムは

「あ…れ…? 半分…見え…な……」

何処か気の抜けたそれでいて掠れた声で、ぽつりと言葉をひとつ漏らした。
鉛でも流し込まれたのではないかと思われるほど重く震える片腕を持ち上げ、のろのろと自らの視界の位置に持ってくる。
グローブは、傷だらけで中の手が見えるほど破れており、僅かに血が付いている。

「……」

現在イルムには、キャノピーとモニター越しから見えていた真っ青な蒼穹が歪に、半分だけくっきりと切り取られた形で見えており、更には赫に染まった謎のモノが視界に入っていたのだ。
そして、何故かまるで自分の身体ではないように思えてしまうほどに自分の身体が酷く重く、シートに縫い付けられ身動き一つできなくなってしまったかの様で、イルムは痺れた脳で必死に自分に何が起きたのか思い出そうとしていた。
しかし考えようとすればするほど、それはまるで空中で霧散してしまい掴むことが出来ずにいた。

「イル… 中尉… …ガ…ト中尉  返事を…ろ…」

ふ…と意識が薄れた時、小さな爆発音や火花の飛び散る音に紛れ、自分の名前を呼ぶ声が聞こえた。
インカムから聞こえてくるのか、それともスピーカーからなのか今のイルムにはそれすらも判断が付かない状況で、その声の主が誰であるかだけははっきりと聞き取れた。

「イ…… グラ…ム…少…佐……です…か… な…んで… 少佐……が……」

自分を見下ろして来る相手がすぐ目の前にいると言うのにも関わらず、それすらも何処かフィルター越しの出来事の様な感覚で、イルムはその相手の名前を呟くと静かに意識が遠退いていった。

R?GUNに搭載されている特殊なコンピューターでジャミングキャンセラーのプログラムを立ち上げる為に神島から眼を離した一瞬の隙に、轟…っと言う衝撃波が神島方面から轟き、機体を揺さぶる。

「……っ!」

イングラムがその衝撃に顔を上げると神島は高熱源に包まれ、その閃光にモニターの彩度が僅かに落ちる。

「…まずい…な… あの様子では…」

ジャミングキャンセラーのプログラム起動を諦めバーニアを噴かそうとした時、R?GUNのターゲットセンサーが警告音を発し、イングラムはそのセンサーに反応した物体を速やかにモニターへ映し出す。
そして、モニターに映し出された敵機の形状の異様さと、ダメージを大きく受けているだろう状態にグルンガストがそこまでしたのだと察知した。しかし、グルンガスト1機でこの状態であるのだ。
R?GUN1機ではどうにもならないのは明白で、イングラムは緊急的に装備しておいたレーザーチャフを散布し、ペダルを踏んでバーニアを最大全速にし、神島へと急いだ。



建物は爆風でなぎ倒され破壊尽くされており、多分そこには町があったであろう場所の中央付近に、無惨な状態の巨体を横たわらせているグルンガストがあった。
無数の槍状のドリルがその巨体を貫き、頑強な筈の装甲が罅割れ、そこから巨体を維持する為のエネルギーを稼働させる為のプラズマリアクターからの廃熱処理を行う装置の破壊によって廃棄熱を処理仕切れなくなったせいで水蒸気が吹き出し、寸断された回路の至る所から火花が飛び散っていた。
イングラムは、らしくもなく小さく舌打ちをすると、R?GUNでグルンガストの傍まで近付き、コクピットのある頭部へと機体を寄せると手動で一部のモニターを移動させ、オートコントローラーでコンソールパネルを格納し、R?GUNのコクピットハッチを開いてシートベルトを外しハッチ脇にあるリフトグリップを使ってグルンガストの破壊されたコクピットへと降りる。

「イルムガルト中尉、返事をしろ。生きているなら…」

熱くなった装甲からの放熱は、パイロットスーツを着用していでも感じられるほどで、イングラムはスーツの内部温度調整をしつつ、割れてコクピット内が剥き出しになったキャノピーの一部を手で外しながらグルンガストのコクピットを覗き込んだ。

「…っ」

イルムの名前を呼び覗き込んだそこは、イングラムが想像していた以上の状況だった。
本来なら臭ってくる筈もないのにヘルメット越しからも、血臭が鼻腔を擽り胃液が迫り上がる様な感覚が、イングラムですらほんの一瞬だけ感じられる程の状態が、そこには繰り広げられていた。
筆舌し難いと言う言葉は、こういう時に使われるのだろう。
生命維持の危険を知らせるアラームがけたたましく鳴り響き、割れたキャノピーの一部が散乱し、更には敵機の発射しただろう槍状のドリルの破片の一部がコクピット内に突き刺さっていた。
そして破壊され既に機能を果たさなくなっているコンソールパネルの上に、グルンガストのパイロットである血塗れのイルムの片腕が、辺りをも血で染め歪な形に折れ曲がり千切れた状態で引っかかっていた。
パイロットスーツを着用した状態で怪我をし、ヘルメットが自らの手で外せない場合、パイロットスーツ内に溜まった自らの血で溺死する事もあるのだ。
だがイルムは運が良くヘルメットが外れた為に、それだけは免れていた。
が、それだけだった。

「…衝撃で…ヘルメットが外れ…窒息死は免れたが…このままでは失血死も間近だな…」

そう呟きつつ、ふ…とイルムの上半身の状態を確認した後、破壊されて半分に折れ落ちた上部モニターと、爆風で煽られコクピットに飛び込んでそのまま内部を抉る様に突き刺さった装甲の一部へと視線を移した。
コクピットの後部壁面に装甲の一部と共に縫い付けられているそれを凝視し、イルムの姿を再び見詰める。

「…ああ」

イングラムは、再び小さく喘ぐ様に声を漏らすと、コクピット内が飛び散った血で染まっている理由のもうひとつが理由がそこで判明した。



「イ…… グラ…ム…少…佐……です…か… な…んで… 少佐……が……」

ふと、衝撃と失血で意識が朦朧としているイルムがイングラムの存在に気付き、生気のない視線で自分を見詰めて来た事に気付く。
鮮やかな海の色に染め上げられた長い髪が、血でべっとりと赫く染まり重たそうに流れ落ち、その赫が雫となってシートとパイロットスーツだけでなく床をを汚しており、その反比例する色彩が、じわじわとイルムの生命の灯火を奪っていっているのだ。

「黙っていろ。直…医療班が到着する…」

イングラムは、自分を見詰めたまま意識を手放すイルムに、ただそれだけ言うと粉々になったキャノピー越しから天空を仰いだ。




呼吸を補助する装置のポンプの音と心拍数と脈拍を監視する装置の微かな電子音が、静かな病室に響く。真白なリネンと薄水色の患者用の白衣、そして全身を覆い尽くす包帯がイルムの身体を覆い尽くしていた。

「時間を掛ければ損傷した肉体の再生も…可能ではある」

ICUにある滅菌室で眠るイルムをガラス越しに眺め、イングラムは手渡されたカルテと、その他のデータが記されたレポートを眺めながらポツリとそう言葉を紡いだ。

「しかし…」

そして一呼吸したあと、そのレポートの内容を読み上げていた相手に向けて

「今戦における戦線復帰は絶望的だな…」

と、感情のない口調で言い放つ。
「特機のパイロットの戦線離脱か…」
イルムの眠る滅菌室を監視するモニターを眺めつつ、医師と科学者、研究員と一部の軍上層部のメンバーが渋い顔をしてみなが一様に小さく呻く。
「現戦況を考えると、我々にとっても手痛い損失だ…」
事実、グルンガスト級の特機のパイロットの養成には、多大な時間が必要だった。
更に云えば、イルムは中尉と言う階級ではあるが、特機パイロット養成には欠かせない教官としての知識と能力も高く、今後、特機のパイロットになるだろう若者達のよき先駆者として働いて貰う予定でもあったのだ。
「だが、こうなってしまっては…傷痍兵として…後方に下がって貰うしか…」
「では今後グルンガストのパイロットは誰がするのだっ」
「新兵に能力者はいないのか」
科学者も軍上層部の、イルムの容態を案じるだとか労うなどと言う意思はまるでなく、手駒が減った事にのみ議論を投じており、そこにイルムの親族がいると言う事なとすっかり忘れているかの様で、カザハラ博士は青冷め強張った表情のままモニター越しの自分の息子を見詰めていた。
そんな中イングラムはその様子に薄っすらと彼等を見下した様な笑みを浮かべつつ、

「ひとつ…手段を問わないのであれば…」

『消去済み』と書かれたディスクを一枚、過去の資料の中から取り出す。
「……っ!」
そのディスクに見覚えのあったカザハラ博士とハミル博士、そして軍上層部のメンバーでも更に発言力のある人物の1人が息を呑み、イングラムの持つそのディスクを凝視した。
「駄目だ…っ それは凍結したプロジェクトのはず…っ」
ハミル博士がカザハラ博士の顔色を窺いつつ、そう叫ぶ様にして、イングラムの行動を諫める。
しかしそんなハミル博士の言葉を遮る様にしてイングラムは、何事もなかったかの様に淡々と語り続け、

「????それには、凍結されている“例の計画”の凍結解除と再編…」

そこまで言うと、今度はカザハラ博士が取り乱したように椅子から立ち上がり、イングラムへと詰め寄ってその襟刳を掴み言葉もなく拳を怒りに振るわせたが、反対にイングラムはそんなカザハラ博士を軽く一瞥し、

「イルムガルト中尉本人の意思と了承が必要になる」

そう言い放つと襟刳を掴んでいたカザハラ博士の手を払い除け、小さく溜息を吐いて襟を正した。
そして、

「…カザハラ博士ほどの方が私情に流されて、現存する数少ない手段のひとつの妨げをするような愚かしい行為を…するはずなどありませんね」

そう言ってイングラムは口元を弓形に口角を吊り上げた。



特殊脳医学研究所の地下施設内にある、一般研究員が立ち入ることの出来ない第一級サイコハザード区域の最奥部に作られた更に特殊IDを持っている人間しか侵入を許されない区域に、イングラム少佐、そしてイルムがいた。

「意識が覚醒している間に、出来るだけの事をしておいてもらわないとな…」

生命維持装置や、ありとあらゆる特殊な機械がイルムの寝ているユニットの周囲には設置されており、それら総てがイルムの身体の何処へと繋がれている。
そして、そんな状態でありながらもイルムは手渡された資料が映し出されるモニター付端末を器用に片手で操作しながら、必要項目にチェックを入れ書類とデータを照らし合わせ、身体状況をチェックしているイングラムに向けてそう呟いた。
神島での事件からまだ2週間だと言うのに、既にイルムはそこまで会話が出来るようになっていた…と言うよりも、強引にそれらの事が出来るような身体に調整されたと言っても良かった。
その影響でか、1日のうち半分は意識を失う様に眠っているか、半覚醒状態でデータを抽出する作業と、投薬によっての肉体の補強調整に費やされていた。

「ああ。まだ本格的な調整前だからな、ここで潰してしまったとしたら、貴様に掛けられた莫大な予算が水泡と帰す」

イングラムの無情とも思える言葉に、イルムは掠れた何処か冷めた笑い声を漏らす。
既に、この計画に首を縦に振った時点で、イルムは“人として生きる権利”を捨てたのだ。
既に軍籍も抹消され、何処の軍施設内にも存在しない事になっていた。
いやそれ処か、もしかしたら戸籍すら廃棄され『死亡者』扱いされているのではないかと、イルムは考えていた。それほど、今現在イルムが置かれている状況は過酷なものだったのだ。

「予算分は働かないと…な… あんたも減給されたくはないだろ…」

半分虚ろな視線で、そう言うとイルムは口元だけで笑みを作る。
以前のような明るく、太陽の陽射しのように明るく全開で笑っていた時とは正反対の仄昏い陰を落とした笑顔は、白く乾きひび割れた口唇に青冷めてくすんで肌の色を更に暗いへと見せる。

「俺の事はどうでもいい。総ては貴様中心なのだからな… さて。それでは先ほどの説明の続きだが」

だが、イングラムの方はそんなイルムの軽口を聞いているのかいないのか、イルムの言葉を遮り、

「…当時、ドナ・ギャラガーという女性研究員が“個人”で開発していたシステムの応用だ。 まあ言ってしまえばTLSの前身に近いものだな。」

そう言葉を続け、イルムの持つ端末にデータを送る。
その内容は普通の精神を持つ人間ならば吐き気を催す様な大量の実験データと、そのサンプルの写真、そしてその実験家結果とサンプルの末路が克明に記されていたのだ。
しかし、イルムはそれらを顔色ひとつ変えず無言のまま閲覧し続けている。

「…違いがあるとすれば、インターフェースを脳の指令部に直結させると言うことだな…」

イングラムはそこまで言うとイルムの方をチラリと見遣り、そして一呼吸置く。
それは、イルムに対してまるで憐憫の情を思わせる様な視線ではあったが、本人はそんな気は一切無く、イルムにしてもそれをイングラムが本心からしているとは思ってもおらず、その視線を受け取る事はない。

「しかし…皮肉なものだな。…カザハラ博士達が開発計画の進退を賭けてまで封印した…その悪魔が…最初から貴様を選んでいたとはな…」

と、最後のデータをイルムの端末に送信し終え、イングラムはポツリと呟く。

「月基地の…」

そこへ小さな電子音が鳴り、そのデータを受け取って丁寧にそれらを脳内へと叩き込みながら、反対にイルムはイングラムの言葉を遮るかの様に言葉を続けた。

「…いや、もっとずっと前から…“こいつ”は俺の傍に居たんだな…」

抹消された筈のデータの一部のコードナンバーのシステムの一部が、何も知らないままずっと自分が駆っていたグルンガスト壱式に搭載されていた事と、そしてそのコードナンバーが実は自分に科せられていたものだと知り、イルムは先ほどとは異なる笑みを漏らした。

「イングラム……この身体、あんたにくれてやるよ」

資料を読んで総ての事柄が自分の胸の中で繋がり、ストンと腹の中に収まった感覚を受けたイルムは、最初から、そのつもりだったんだろう…と、言う様にイングラムへと微笑む。

「覚悟はある…と言うことか いいだろう」

イルムの表情を見詰め、イングラムも薄く微笑む。
共犯者は、出来るだけ多い方がいい。
しかし、この計画に限ってはふたりだけで充分なのだ。


そして……。




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